マルチビームREV法(Rapid Evaluation of Voltage method)は、デジタルビームフォーミング(DBF)アレーアンテナの高速かつ高精度な校正を実現するための技術です。
この方法は、特に多数の素子を持つDBFアレーアンテナにおいて、従来の校正法が抱えていた測定時間の増大という課題を解決するために考案されました。
マルチビームREV法の原理と高速化
REV法は、アンテナ素子ごとの位相・振幅のばらつき(素子間誤差)を効率的に推定するための手法です。マルチビームREV法は、このREV法の概念をDBFの特性と組み合わせて高速化しています。
1. DBFの特性の活用
DBF(Digital Beamforming)アレーアンテナは、各素子の信号をデジタル領域で処理することで、同時に複数のビームを形成できます。マルチビームREV法は、このマルチビーム形成能力を校正用信号の受信に活用します。
2. 校正の基本手順
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基準ビームの設定:理想的な素子間特性(校正目標)に基づいて、1つの基準ビーム(通常は正面方向)をデジタル的に形成します。
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マルチビームの形成と送信:校正対象のアンテナを送信モードまたは受信モードで使用し、空間的に異なる方向へ同時に複数の校正用ビームを形成します。
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応答の測定と相互参照:
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送信の場合:基準受信機で各ビームの電力や位相応答を測定します。
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受信の場合:基準送信機(遠方界にある単一信号源)からの信号を、デジタル的に形成した複数の校正用ビームで同時に受信します。
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誤差の推定:測定されたマルチビーム応答と、基準ビーム応答との差分または相関を解析することで、各素子の振幅・位相誤差を高速に推定します。
3. 高速化の仕組み
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並列測定:従来の校正法では、1つのビームまたは1つの素子を校正するために指向性パターンを個別に測定する必要がありましたが、マルチビームREV法ではDBFの機能により複数のビーム応答を同時に(並列に)収集できます。
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少ない測定点:全方向を掃引(スキャン)する代わりに、数点の校正方向(ビーム方向)のデータだけで、アレー全体の誤差情報を抽出できるため、測定時間が大幅に短縮されます。
この手法により、特に大規模なアレーアンテナや、運用中に特性が変動しやすい環境下でのリアルタイムに近い校正が可能となり、アレーアンテナの高精度なビーム制御と信頼性が向上します。
こちらの資料では、「マルチビームREV法によるDBFアレーアンテナの高速校正」について詳しく解説されています。
A Fast DBF Array Antenna Calibration by Multi-Frequency Multi-Beam REV Method
複数周波数を使ったマルチビームREV法によるDBFアレーアンテナの高速校正
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複数周波数を使ったマルチビームREV法によるDBFアレーアンテナの高速校正
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