
RFアナログ信号発生器におけるパルストレイン変調、特に異なるパルス幅のパルス列の連続は、レーダーシステムの試験において重要な利点をもたらします。
パルストレイン変調(Pulse Train Modulation)とは
パルストレイン変調とは、RF搬送波をオン/オフすることで、一連のパルスを生成する変調方式です。基本的なパルス変調では、一定のパルス幅とパルス繰り返し周期(PRI)を持つパルスが生成されます。
しかし、パルス幅が異なるパルスの連続、すなわち可変パルス幅のパルストレイン変調は、より高度なレーダー信号生成に用いられます。これは、単一のパルスだけでなく、複数の異なるパルスが連続して送信されることを意味します。この変調は、従来の全てアナログ回路でなく、近年ではデジタル信号処理(DSP)や直接デジタル合成(DDS)技術によって生成されることが多くなっています。
レーダーにおける利点
パルス幅が異なるパルス列の連続をレーダーに適用することには、以下のような複数の利点があります。
- 距離分解能と最大探知距離のトレードオフの改善(パルス圧縮)
- 短いパルス幅: 距離分解能(近接する2つのターゲットを区別する能力)は優れていますが、送信エネルギーが小さいため、最大探知距離が短くなります。
- 長いパルス幅: 送信エネルギーが大きく、最大探知距離は長くなりますが、距離分解能は低下します。
- パルストレイン変調(パルス圧縮): パルス圧縮技術を用いることで、長いパルス幅で十分なエネルギーを送信しながらも、受信側で信号処理(例えば、線形周波数変調(LFM)や位相変調をパルス内で行う)によってパルスを時間的に圧縮し、あたかも短いパルスを送信したかのような高い距離分解能を得ることができます。異なるパルス幅を組み合わせることで、このトレードオフをより柔軟に最適化できます。
- クラッタ(不要な反射)の抑制
- 地表や気象によるクラッタは、レーダーの性能を著しく低下させます。パルス幅やPRIを変化させることで、クラッタからの反射とターゲットからの反射を区別しやすくなり、特に移動目標指示(MTI)やパルスドップラーレーダーにおいて、クラッタ抑制能力が向上します。これにより、低高度を飛行するミサイルや航空機などの小型高速移動物体を、地表や海面の近くで検出する能力が向上します。
- ジャミング(妨害)耐性の向上
- パルス幅、PRI、周波数などをランダムまたは複雑なパターンで変化させることで、敵からのジャミングやスプーフィング(なりすまし)に対してレーダーが脆弱になるのを防ぐことができます。可変周波数パターンを使用することで、ジャミングの影響を受けにくくしたり、近接する送信機間の干渉を減少させたりすることも可能です。
- 識別能力の向上と探知確率の増加
- 異なるパルス幅や変調方式を組み合わせることで、レーダーが受信するエコーの情報を増やし、ターゲットの識別の精度を高めることができます。また、パルスのデューティサイクル(オン時間)を増やすことで、平均送信電力を増加させ、ターゲットの探知確率を向上させることも可能です。
- 低被探知確率(LPI: Low Probability of Intercept)
- レーダー信号の特性を変化させることで、敵にレーダーの存在を検知されにくくすることができます。これは、特に軍事用途において重要です。パルス内変調(MOP)によってより広い帯域幅を占有させることで、LPIを向上させることができます。
- 複数の機能の統合
- パルストレインに変調をかけることで、距離測定や速度測定に加え、IFF(Identification Friend or Foe)システムのような情報伝達やデータ転送をパルス内に含めることも可能です。
これらの利点から、RFアナログ信号発生器を用いたパルストレイン変調(特にパルス幅が異なるパルス列の生成)は、現代の高性能レーダーシステムにおいて不可欠な技術となっています。これにより、より正確な探知、識別、追尾が可能となり、多様な環境下での運用に対応できるようになります。