RF-MEMS(アールエフ・メムス)とは、Radio-Frequency Micro Electro Mechanical Systems(高周波微小電気機械システム)の略で、微小な機械構造と電子回路を統合し、高周波(RF)信号の制御や処理を行うデバイスのことです。
半導体の微細加工技術(MEMS技術)を応用してシリコン基板上に作られ、携帯電話や無線LANなどに使用される無線通信機器の高性能化、小型化、低消費電力化に大きく貢献することが期待されています。
構造と動作原理
RF-MEMSデバイスは、主に以下の特徴を持ちます。
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微細な可動部: マイクロメートル($\mu$m)レベルの非常に小さな可動部品(カンチレバービーム、ダイヤフラムなど)を持ち、静電力などの機械的な動作で高周波信号を制御します。
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半導体プロセスとの整合性: シリコンプロセス技術を用いて製造されるため、従来の半導体集積回路(LSI)との混載や大量生産が容易です。
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機械的動作: 従来の半導体素子(ダイオードやトランジスタなど)を用いた高周波デバイスに比べ、機械的なオン/オフ動作を行うため、非線形性が低く、信号損失(挿入損失)が非常に少ないのが特長です。
主要な応用例
RF-MEMS技術は、主に無線通信機器のRFフロントエンド(アンテナと送受信回路の間で信号を処理する部分)に使用され、その中でも以下のデバイスが代表的です。
| デバイスの種類 | 機能 | 特徴 | 応用分野 |
| RF-MEMSスイッチ | 信号経路の切替(ON/OFF) | 従来の半導体スイッチに比べ、低損失で高いアイソレーション(分離)が可能。 | アンテナ切り替え、システム切替 |
| MEMS可変キャパシタ | 静電容量の値を可変 | 静電容量を電気的に調整可能。 | インピーダンス整合回路、チューナブルフィルタ |
| FBAR(弾性波)フィルタ | 特定の周波数帯域の信号を選別 | 高いQ値(エネルギー損失の少なさ)が得られ、高周波化に適している。 | 携帯電話の周波数フィルタリング |
利点と課題
利点(メリット)
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高性能・高効率: 低い挿入損失と高いQ値により、信号のエネルギー損失が少なく、高効率な通信が可能となります。
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小型化・高集積化: 微細な構造により、デバイスの小型化が実現し、無線通信機器全体の小型化、部品点数の削減につながります。
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低消費電力: 従来の素子に比べ、待機時などの消費電力が少ない傾向があります。
課題(デメリット)
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信頼性・耐久性: 可動部を持つため、動作寿命や衝撃に対する耐久性、製造後のパッケージング技術の確立が課題とされてきました。
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高速性: 機械的な動作のため、半導体素子に比べるとスイッチング速度が遅い場合があります。
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駆動電圧: 動作させるための電圧が高い傾向がありましたが、近年は低電圧化の研究が進んでいます。
近年の5Gや将来の通信規格においては、より多くの周波数帯域に対応する必要があるため、RF-MEMSの持つ低損失、広帯域性、チューナブル(周波数可変)な特性への期待が高まっています。






