Wi-Fi 7の「4096-QAM」を実現するために、ハードウェアレベルで不可欠となっているのが RF-SOI 基板と、その最新進化系である RFeSI(RF enhanced Signal Integrity) 技術です。
これらは、前述した「パワーアンプ(PA)の非線形性」を抑え、極めてクリーンな信号を維持するための「土台」となります。
1. RF-SOI とは?
RF-SOI (Radio Frequency Silicon on Insulator) は、シリコン基板の上に薄い絶縁層(埋め込み酸化膜:BOX)を作り、その上に素子を形成する技術です。
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絶縁性の向上: 従来のシリコン基板(Bulk-Si)に比べ、素子間の干渉(クロストーク)を劇的に減らせます。
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寄生容量の削減: 絶縁層があることで、高速動作を邪魔する「余計な電気の溜まり場(寄生容量)」が減り、電力効率と高周波特性が向上します。
2. RFeSI(RF enhanced Signal Integrity)の役割
RFeSI は、フランスのSoitec社などが展開しているRF-SOIの高度なブランド・技術呼称です。特に 「Trap-Rich(トラップリッチ)層」 という特殊な層を組み込んでいるのが最大の特徴です。
4096-QAMに対するメリット:
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高線形性(Linearity)の確保:
基板深部で発生する信号の歪みをトラップリッチ層が「トラップ(捕獲)」して抑制します。これにより、4096-QAMで必須となる高い線形性が得られ、EVMの悪化を防ぎます。
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高調波(ハモニック)の抑制:
PAが動作する際に発生する不要な高周波(ノイズ)を抑え、隣接チャネルへの漏洩(ACLR)を防ぎます。
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高集積化(iFEM):
PA、LNA(低ノイズアンプ)、スイッチなどを1つのチップに高密度に集積しても、お互いの干渉をRFeSIが遮断してくれるため、小型化と高性能を両立できます。
3. Wi-Fi 7 における重要性の比較
| 項目 | 従来の Bulk-Si | RF-SOI (RFeSI) | Wi-Fi 7への影響 |
| 信号の歪み | 多い | 極めて少ない | 4096-QAMの維持に直結 |
| 電力損失 | 大きい | 小さい | 高出力時の省電力化 |
| 干渉遮断 | 低い | 非常に高い | 複数のアンテナ(MIMO)の安定化 |
まとめ
Wi-Fi 7において、4096-QAMという超精密な変調を行うためには、単にデジタル補正(DPD)を行うだけでなく、その信号を増幅するパワーアンプが載る「床(基板)」が揺れてはいけません。
RF-SOI / RFeSI は、その「揺れない、ノイズを出さない床」を提供することで、非線形PAの限界を押し上げ、Wi-Fi 7の公称速度(30Gbps超)を現実のものにしています。
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