Sパラメータとは?RF測定の基本と活用例をやさしく解説

Sパラメータ(散乱パラメータ、Scattering Parameters) は、高周波(RF)回路における電気的特性を数値で表すための重要な指標です。とくにベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用いた測定において、Sパラメータは回路の反射・透過特性を理解するうえで欠かせません。

この記事では、Sパラメータの基本的な意味や種類、測定方法、実際の活用例についてわかりやすく紹介します。


Sパラメータとは何か?

Sパラメータとは、「Scattering(散乱)」を意味し、高周波信号がポート間でどのように反射・透過されるかを示す指標です。電圧・電流の代わりに、進行波・反射波を用いて表現されるのが特徴です。

たとえば、2ポートデバイスの場合、以下の4つのSパラメータが定義されます:

パラメータ 説明 主な意味
S11 入力ポートに入力した信号の反射成分 反射係数、リターンロス
S21 入力ポートに入力した信号の出力ポートへの透過成分 インサーションロス/ゲイン
S12 出力ポートに入力した信号の入力ポートへの透過成分 逆方向透過、アイソレーション
S22 出力ポートに入力した信号の反射成分 出力側の整合特性

なぜSパラメータが必要なのか?

高周波の世界では、電圧や電流の測定が困難なため、進行波と反射波をベースにした解析が主流です。Sパラメータは以下のような理由から広く用いられています。

  • 複雑なインピーダンスの影響を簡潔に表現できる

  • 反射や透過の周波数依存性を把握できる

  • ネットワーク接続や多段回路の合成がしやすい


実際の活用例

✅ アンテナの整合確認(S11)

アンテナの性能を評価する際、S11を測定してリターンロス(反射の大きさ)を確認します。S11が小さい(=反射が少ない)ほど、アンテナとして理想的です。

✅ フィルタの透過特性(S21)

バンドパスフィルタやローパスフィルタの透過帯域や遮断帯域を測定するには、S21を確認します。ゲインや損失の周波数依存性を可視化できます。

✅ アンプのゲインとアイソレーション(S21, S12)

高周波アンプの利得はS21で確認し、逆方向(出力から入力)への漏れはS12で評価します。アイソレーションが高いほど望ましい特性とされます。


Sパラメータの単位と表示

  • dB表示:通常、Sパラメータは対数スケール(dB)で表示されます。

    • 例:S11 = –10 dB(反射が10%程度)

    • 例:S21 = –3 dB(透過損失が約50%)

  • リニア表示(複素数):振幅と位相で同時に解析する場合に使用されます。


測定に使われる機器:ベクトルネットワークアナライザ(VNA)

Sパラメータの測定には、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)が用いられます。VNAは、信号の振幅と位相の両方を同時に測定できる高精度な計測器で、RF測定における必須ツールです。

🔗 ベクトルネットワークアナライザ(VNA)とは?


まとめ

Sパラメータは、高周波回路や部品の“伝送特性”と“反射特性”を可視化するための基本指標です。アンテナ、フィルタ、アンプ、ケーブルなど、あらゆるRF部品の評価に役立ちます。

測定には専用のVNAが必要ですが、正しい使い方と校正を行えば、非常に信頼性の高いデータを得ることができます。