SIGLENT(シグレント) ベクトル・ネットワーク・アナライザ SNA6000Aシリーズ

Sパラメータ完全解説:S11・S21とは?VNA測定の基本


Sパラメータとは何か?

Sパラメータ(Scattering Parameters、散乱パラメータ)とは、高周波・RF回路の特性を周波数領域で表現するための指標です。特に、反射と透過の挙動を数学的にモデル化することで、回路や部品の性能を明確に評価することができます。

オシロスコープやスペクトラムアナライザでは時間軸・パワー軸の評価が中心ですが、Sパラメータは周波数ごとに振幅と位相を同時に評価可能な点が大きな違いです。

測定には**ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)**を使用します。


S11・S21とは?各パラメータの意味

Sパラメータは、ポートの入出力に対する反射と透過を表す「Sij」で構成されます。
ここで、iが観測ポート、jが信号の入力ポートです。

【主なパラメータ】

・S11:ポート1から入力した信号のうち、ポート1へ反射された比率(反射係数)
・S21:ポート1から入力した信号のうち、ポート2に透過した比率(透過係数)
・S12:ポート2から入力し、ポート1に透過した比率(逆方向)
・S22:ポート2から入力し、ポート2に反射した比率

特に重要なのは**S11(整合評価)S21(伝送評価)**です。


S11:反射係数としての役割

S11は、入力した信号がどれだけ反射されて戻ってきたかを示す値です。インピーダンスが整合していれば反射は小さく、整合していないと反射が大きくなります。

S11の測定値は、以下のように表現されることが多いです。

・リターンロス(Return Loss):反射の損失(単位dB)
・VSWR(Voltage Standing Wave Ratio):定在波比(1に近いほど整合)
・反射係数(Magnitude):0に近いほど良い整合

【目安】
・S11 = -10dB以下:良好な整合
・S11 = -20dB以下:非常に良い整合
・S11 = 0dB:全反射(整合不良)

アンテナやRFモジュールの評価では、最も重要な指標の一つです。


S21:透過係数としての意味

S21は、入力ポートから出力ポートへ信号がどれだけ通過したかを示す値です。フィルタやアンプなどの通過特性を測る際に活用されます。

S21の測定値は以下のように表現されます。

・挿入損失(Insertion Loss):信号が通過する際の減衰量(dB)
・ゲイン:増幅回路の場合、出力が入力より増えた分(dB)
・位相応答:信号が伝送される際の位相遅れや歪み

【目安】
・S21 = 0dB:理想的な透過(ロスなし)
・S21 = -3dB:通過損失あり
・S21 = +10dB:アンプでのゲインが得られている状態


Sパラメータの表示形式と読み方

Sパラメータは、以下の形式で表示・解析されます。

・スミスチャート(S11のインピーダンスマッピング)
・dBスケール(S11/S21の振幅をdBで表示)
・リニアスケール(S21のゲインや損失を線形で)
・位相表示(S21やS11の位相遅延・群遅延)

特にVNAでは、これらを同時に複数のトレースで表示可能で、マーカやトリガ機能を使って特定周波数のSパラを簡単に読み取ることができます。


測定の基本:校正と接続の注意点

Sパラメータ測定を行うには、正確な校正(キャリブレーション)が必要です。誤差の要因(ケーブル長、端子の位相ずれ、コネクタ整合など)を除去し、正しい基準点で測定するためです。

【代表的な校正手法】

・SOLT校正(Short, Open, Load, Thru)
・TRL校正(高精度反射・ライン基準)
・ECal(電子校正モジュールで自動校正)

接続時は以下に注意しましょう。

・SMAやN型コネクタをしっかり締結(トルクレンチ推奨)
・リターンロスの悪いケーブルは避ける
・校正の後に接続順序を変えない

これにより、正確で再現性の高い測定結果が得られます。


Sパラメータが活用される具体例

・アンテナ評価:S11で共振周波数と整合状態を確認
・RFフィルタ:S21で通過帯域と遮断帯域の特性を評価
・アンプ回路:S21のゲインとS11の入力整合を見る
・同軸ケーブル:S11・S21で損失や反射をチェック
・EMI対策:共振点やスプリアス伝播の原因をSパラで分析

また、測定したSパラメータはTouchstone形式(.s2pなど)で保存し、ADSやHFSSなどの高周波シミュレータで再利用することが可能です。


まとめ:SパラメータはRF測定の中核を担う指標

Sパラメータ、特にS11とS21は、高周波部品や回路設計において不可欠な測定指標です。
整合が取れているか?どこで反射が起きているか?信号はどれだけ減衰しているか?
これらを周波数ごとに可視化できるのがSパラメータの大きな利点です。

正しく校正し、適切なVNAで測定することで、より高信頼なRFシステム設計が可能になります。
これからRF設計や高周波評価に取り組む方にとって、Sパラメータの理解は大きな第一歩となるでしょう。