DC電源レール(パワーレール)に重畳している**リップル、ノイズ、トランジェント(過渡現象)**などの微小信号を正確に測定するためには、オシロスコープとプローブの選定および測定手法に特別な注意が必要です。
ノイズは非常に小さく(数mV〜数十mVp-p)、オシロスコープやプローブが拾うノイズ(ノイズフロアやコモンモードノイズ)に埋もれやすいため、低ノイズ化と高周波特性の確保が重要です。
1. 測定器と設定の選択
| 要素 | 推奨事項 | 理由 |
| 測定器 | 低ノイズ・高分解能オシロスコープ | 測定器自体のノイズフロアが低いことが、微小信号の観測に不可欠です。高分解能(12ビット以上)モデルが有利です。 |
| 入力結合 | AC結合(交流結合) | パワーレールの大きなDC電圧成分をカットし、垂直感度を上げて微小なAC成分(ノイズ、リップル)だけを拡大表示するために必須です。 |
| 入力インピーダンス | 50Ω (DCカットと併用) | 高周波の反射やリンギングを抑制し、正確な波形を観測するために、50Ω終端が推奨されます。ただし、DC成分がオシロスコープに流入しないようDCブロッキングコンデンサを直列に接続する必要があります。 |
| 帯域制限 | 20MHz (リップル測定時) | スイッチング電源のリップル測定では、高周波ノイズを除去し、リップル成分を分離するために帯域を20MHzに制限することがJIS規格などで推奨されることがあります。ただし、高速なトランジェントを観測する場合は、広い帯域が必要です。 |
2. プローブと接続のベストプラクティス
ノイズ測定の正確性は、プローブの選択と接続方法に大きく依存します。
① パワーレール・プローブの使用(推奨)
パワーレール・プローブ(またはパワーインテグリティ・プローブ)と呼ばれる、この用途に特化したアクティブプローブの使用が最も推奨されます。
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低ノイズ・高感度: 1:1の減衰比と低いノイズフロアにより、微小信号を正確に捉えます。
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広いDCオフセット: プローブ側で大きなDC電圧を打ち消す機能があり、オシロスコープの垂直軸を最大限に拡大してノイズだけを観測できます。
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短いGND接続: プローブの先端にスプリング状のグラウンドチップなどが付属しており、プローブのグランド線ループを最小限に抑えることができます。
② グラウンド接続の最短化(最も重要)
従来のクリップ式プローブの長いグラウンド線は、アンテナとなって外来ノイズ(コモンモードノイズ)を拾い、測定結果を大きく歪ませます。
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ピグテール/ショートスプリング: 10:1パッシブプローブを使用する場合は、クリップと長いグラウンド線を外し、プローブの先端とグラウンドの間に短いスプリングやピグテール線を付けて測定ポイントの直近(通常は出力コンデンサの端子など)に接続します。
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同軸ケーブル直付け: 50Ω同軸ケーブルを分解し、芯線(信号線)とシールド(グラウンド)を測定ポイントに直接ハンダ付けする方法は、最も信頼性の高い測定の一つとされます。
③ 差動プローブ
差動プローブは、コモンモードノイズの除去能力が高く(CMRR)、電源ラインのノイズ測定をより正確に行う手段としても利用されます。特に電源のグラウンドがノイズ源から浮いている場合などに有効です。
3. 各種の測定対象と注意点
| 信号の種類 | 特徴 | 主な測定目的 | 注意点 |
| リップル | スイッチング周波数に同期した周期的な電圧変動。 | フィルタ回路の設計評価。 | 20MHz帯域制限で測定することが多い。 |
| ノイズ | ランダムな高周波成分。スイッチング素子のリンギングなどが原因。 | 高周波ノイズの評価と低減。 | 広い帯域幅(GHz級)のプローブが必要。グランドループの最短化が特に重要。 |
| トランジェント | 負荷変動時などに発生する非周期的な急激な電圧変動(サージ、垂下)。 | 過渡応答特性の評価。 | 発生時間が短いため、高速なサンプリングレートでの測定と適切なトリガ設定が必要。 |
結論として、正確な測定には、AC結合(またはオフセット機能)、50Ω終端、そして最も重要な要素として、グランドループを最小限にしたパワーレール・プローブや短いスプリングチップの使用が不可欠です。
真の電源ノイズ観測のための正しいプローブ選択 ~パワーレールプローブ~ SIGLENT SAP4000P
この動画は、通常のパッシブプローブとパワーレールプローブの違いを比較し、微小な電源ノイズ(リップル)を正確に観測するためにパワーレールプローブが必要であることを示しています。
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製品紹介:SIGLENT社 SAP4000P
パワーインテグリティ測定用シグレント・パワーレールプローブSAP4000P
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https://tm-co.co.jp/SAP4000P_UserManual





