SIGLENT(シグレント) ベクトル・ネットワーク・アナライザ SNA6000Aシリーズ

SMAコネクタの扱い方とVNA測定の注意点【実験現場向け】


SMAコネクタとは?高周波測定に欠かせない接続端子

SMA(SubMiniature version A)コネクタは、高周波信号の伝送において最も一般的に使われるRFコネクタです。50Ωの定インピーダンスを持ち、DC~18GHz程度までの周波数に対応できます(一部高性能品では26.5GHz以上も可)。

特徴として以下の点が挙げられます。

・小型で軽量、実験機材との接続が容易
・ネジ締め方式で接触安定性が高い
・マイクロ波回路やVNA測定での標準コネクタ

VNAによるSパラメータ測定では、コネクタの状態が測定精度に直接影響を与えるため、正しい取り扱いが不可欠です。


SMAコネクタの基本構造とオス・メスの違い

SMAコネクタには**オス(プラグ)メス(ジャック)**の2種類があり、下記の構造を持ちます。

・オス:センターピン(突起)、ネジ外周あり
・メス:センターソケット(受け)、ネジ内周あり

外形は共通(直径6.35mm程度)ですが、センターコンタクトの精度が命です。曲がり・摩耗・ゆるみは高周波信号の反射(S11悪化)や損失(S21低下)を引き起こします。

接続時は「オス=回す側」「メス=固定する側」とし、オスのナット部をトルクレンチで一定の力(8 in-lbf程度)で締め付けるのが理想です。


SMA接続時の注意点【VNA測定において特に重要】

以下は、VNAでSパラメータ測定を行う際に注意すべきSMAコネクタの取り扱いルールです。

【1】ねじ締めは手ではなく専用トルクレンチで
手で締めると過不足が生じ、導通不良や端子の変形を招きます。必ず定トルクのSMAレンチを使用しましょう。

【2】コネクタの状態は常に目視チェック
使用前にセンターピンが曲がっていないか、ネジ部に汚れがないか確認してください。曲がりや摩耗があると、信号が正しく伝わりません。

【3】無理な角度やケーブル引っ張りを避ける
接続中のケーブルが引っ張られていると、内部で微小なギャップが生じて反射や損失の原因になります。VNAやDUTのコネクタが物理的に動かないよう、固定具を使用するのも有効です。

【4】接続順序を変えない
校正後にコネクタの付け外しや順番変更を行うと、測定基準点がズレて誤差が生じます。必ず校正後は接続を維持したまま測定を行ってください。

【5】グラウンド側の接触も重要
ネジ締めの甘さは、グラウンドの接触不良を引き起こし、ノイズや不安定な伝送の原因になります。


校正キットやアダプタの扱いにも注意

VNAではSMA対応の校正キット(SOLT:ショート・オープン・ロード・スルー)を使いますが、これらのアダプタも高精度に加工されているため、取り扱いは慎重に行う必要があります。

・落下厳禁(わずかな変形でも反射特性が変化)
・清掃には無水アルコールや専用スワブを使用
・校正用アダプタと測定用アダプタは分けるのが理想

また、変換アダプタ(SMA-BNCなど)を多用すると、挿入損失や位相ズレが生じやすくなります。必要最小限のアダプタ数で構成するのが基本です。


SMAコネクタ付きケーブルの選定ポイント

測定の正確性はケーブルの品質にも依存します。以下の観点からケーブルを選びましょう。

・インピーダンス:50Ω(必須)
・周波数対応:測定レンジより1.5倍以上の上限を持つもの
・位相安定性:低反射・低ロスの同軸ケーブル(RG-402やSFF-50など)
・曲げ耐性:柔軟性がありつつ安定した伝送ができる構造

VNAでは、SMAケーブルのわずかな曲げやねじれも測定結果に影響するため、繰り返し使用による劣化にも注意しましょう。


現場でのよくあるトラブルと対策

●コネクタ接続しても信号が出ない
→ ピンの変形、断線、締め付け不足が疑われます。

●S11が極端に悪化した
→ DUT側またはケーブル側の整合不良、校正忘れ、汚れや異物混入の可能性があります。

●測定値が日によって変わる
→ 温度変化、再接続の影響、コネクタ摩耗が考えられます。再校正と接続安定性の確認を行いましょう。


ハンドヘルドVNAでのSMA取り扱い注意点

ポータブルタイプのVNA(例:OWON SHA850-VNA)では、軽量かつ持ち運びが可能な反面、落下やケーブル引っ張りによる端子破損のリスクが高くなります

現場での活用時は以下に注意してください。

・VNA本体を机にしっかり固定する
・測定中のケーブルを動かさない
・アダプタやコネクタ部には防振・滑り止め措置を講じる

また、ハンドヘルド型でも高精度測定を行うには、しっかりと校正した状態を保つことが前提です。


まとめ:SMAコネクタの取り扱いがVNA測定の精度を左右する

高周波測定では、信号の整合性と安定性が何より重要です。特にVNA測定では、わずかな接触不良や接続ミスがSパラメータに大きく影響します。

その中で、SMAコネクタの正しい扱いは、信頼性の高い測定を行うための基本中の基本です。

・トルク管理された締結
・常に状態を点検・清掃
・校正後の接続は固定
・ケーブル選定にも妥協しない

これらを徹底することで、開発現場や評価試験における測定品質が格段に向上します。
高精度測定を実現したい現場の方は、まずはSMAの取り扱いを“見直す”ことから始めてみましょう。