TSN対応ローカル5Gと低遅延通信半導体は、主に工場やプラントなどの産業分野(製造業DX)において、超低遅延で信頼性の高いリアルタイム制御を実現するために不可欠な要素です。
これらの技術は、ローカル5Gを単なる高速無線通信ではなく、産業用の確実な制御ネットワークとして機能させるための鍵となります。
1. TSN対応ローカル5Gとは
1. ローカル5G
ローカル5Gは、企業や自治体などが自らの敷地や建物内で、特定の用途のために専用の周波数帯を使って構築・運用する5Gネットワークです。公衆網とは独立しているため、セキュリティや柔軟なカスタマイズ性に優れています。
2. TSN (Time Sensitive Networking)
TSNは、IEEE 802.1のタスクグループで標準化が進められている、イーサネットをベースとした通信技術です。主な目的は、遅延時間(レイテンシ)と遅延の揺らぎ(ジッタ)を最小限に抑え、通信の確実性(確定性)を保証することです。
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工場内の機械制御や自動車の制御システムなど、ミリ秒(ms)単位の厳密な同期とリアルタイム性が求められる分野で採用されています。
3. TSN対応ローカル5G
TSN対応ローカル5Gは、ローカル5Gの無線通信と、有線ネットワークのTSN技術を連携させるものです。これにより、ローカル5Gが持つ大容量・低遅延の特性に、**TSNが保証する超低遅延と高い信頼性(確定性)**が付加されます。
この組み合わせは、従来の有線ネットワークの確実性を維持しつつ、配線の制約を取り払い、産業用ロボットの遠隔制御や自動搬送車(AGV)の協調制御といった、リアルタイム性が重要なアプリケーションを無線で実現するために不可欠です。
2. 低遅延通信半導体の役割
ローカル5Gの通信では、無線信号の送受信や符号化・復号化といった無線処理に時間がかかり、これがエンド・ツー・エンドの通信遅延(レイテンシ)の大きな要因となります。
低遅延通信半導体は、この無線処理にかかる時間を極限まで短縮するために開発されています。
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処理の高速化: 従来の汎用的なソフトウェア処理に頼らず、専用のロジック回路(ハードウェア)によって無線信号処理を高速化することで、通信遅延を大幅に短縮します。
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例として、従来の通信チップでは10ミリ秒(ms)程度だった遅延時間を、0.2ミリ秒以下(50分の1以下)に短縮する研究開発が進められています(NEDOなどのプロジェクト事例)。
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SDR(ソフトウェア無線)機能との連携: 低遅延チップにSDR機能を搭載することで、遅延優先、帯域優先、上り/下り比率など、産業用途の要求に応じて通信設定を柔軟にカスタマイズできるようになります。
ローカル5Gが「超低遅延」を実現し、TSNとの連携を可能にするためには、この低遅延通信半導体による物理層およびMAC層での高速処理が欠かせません。この半導体こそが、ローカル5Gを真の「産業用制御ネットワーク」へと進化させるための基盤技術となります。



