
Vバンド高スループット衛星(V-band HTS: High-Throughput Satellite)とは、衛星通信で通常使われるKuバンドやKaバンドよりもさらに高いVバンド(およそ40GHz~75GHz)の周波数帯を利用して、テラビット級の超大容量データ通信を実現することを目指した次世代の衛星システムです。
現在のKaバンドが混雑し始めたこと、およびデータ通信需要の爆発的な増加に対応するため、各国や企業で研究開発が進められています。
Vバンド HTSの主要な特徴とメリット
Vバンド(Kaバンドより高い周波数帯)をHTSに適用することで、以下の大きなメリットが生まれます。
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超大容量化 (Terabit-class Capacity):
Vバンドは利用できる周波数帯域幅が非常に広いため、Kaバンドの数倍〜数十倍となる1テラビット/秒 (Tbps)級の通信容量を持つVHTS (Very High Throughput Satellites)の実現を可能にします。
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周波数逼迫の解消:
Ku/Kaバンドの衛星通信やLEOコンステレーション(Starlinkなど)の利用が進み、周波数の混雑が深刻化しています。Vバンドはそのフロンティアとして、新たな通信リソースを提供します。
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地上局の小型化:
高い周波数を使用すると、波長が短くなるため、同じビーム幅を得るために必要なアンテナのサイズを小型化できます。
主な技術的課題と対策
Vバンドのような高周波数帯の利用には、解決すべき大きな技術的課題が存在します。
1. 深刻な降雨減衰(Rain Fade)☔
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課題: 周波数が高くなるほど、雨、雪、霧などによる電波の減衰(通信品質の劣化)が非常に大きくなります。特にVバンドでは、Kaバンドよりも減衰が深刻です。
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対策:
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ACM(適応型符号化変調)の高度化: 通信状態に応じてリアルタイムで符号化・変調方式を切り替え、悪天候時でも最低限の通信を維持します。
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アップリンク・ダウンリンク電力制御: 通信環境が悪いときだけ送信電力を上げて減衰を補償します。
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2. 機器・部品の開発
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課題: Vバンドで安定した大出力を出すための**高出力増幅器(HPA)や、超高周波数に対応した低ノイズ増幅器(LNA)**などの衛星搭載機器の開発が不可欠です。
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対策: 半導体技術(特にMMIC: Monolithic Microwave Integrated Circuit)の進化により、小型・高効率なVバンド対応コンポーネントの開発が進んでいます。
開発・市場動向
Vバンドは、Kaバンドの次の世代のHTS(VHTS)において、特にフィードリンク(地上局と衛星間の大容量回線)として重要な役割を担うと見られています。
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Viasat-3:
Viasat社のテラビット級衛星システム「ViaSat-3」は、その超大容量を実現するために、ユーザーリンク(端末と衛星間)だけでなく、Qバンド(30-50 GHz)やVバンドをフィーダーリンクとして利用する計画を持っています。
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市場予測:
Vバンド衛星通信の市場は、高容量・低遅延データ通信のニーズと、HTSおよびLEO(低軌道衛星)コンステレーションの展開により、今後急速に成長すると予測されています。Vバンドは、5G/Beyond 5Gネットワークのバックホールとしての利用や、AR/VRなどの超広帯域アプリケーションへの適用も期待されています。
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