SIGLENT(シグレント) ベクトル・ネットワーク・アナライザ SNA6000Aシリーズ

VNAとは?ベクトル・ネットワーク・アナライザの基本原理と活用例


VNAとは何か?

VNAとは「Vector Network Analyzer(ベクトル・ネットワーク・アナライザ)」の略で、高周波の信号が伝送路や部品を通過するときにどのように振る舞うかを測定するための計測器です。特に、反射や透過に関する「Sパラメータ(散乱パラメータ)」をベクトル(振幅と位相)で測定できるのが大きな特徴です。

ネットワークアナライザには「スカラ型」と「ベクトル型」がありますが、ベクトル型は位相情報まで測定できるため、アンテナやフィルタ、基板のインピーダンス特性など、より精密な評価が可能です。


VNAの基本構成と測定原理

VNAは、主に以下のような構成要素で成り立っています。

・信号源(RF信号を出力)
・分岐器(方向性結合器、ディレクショナルカプラ)
・受信ユニット(反射波・透過波を測定)
・ベクトル検出(振幅と位相を同時に解析)
・制御/演算ユニット(Sパラメータを演算し表示)

測定の基本は「送信した信号がどれだけ反射されたか」「どれだけ通過したか」を比較し、S11(反射係数)やS21(透過係数)を求めることです。
1ポート測定なら反射特性(S11)、2ポート測定なら伝送特性(S21)を測定できます。


Sパラメータとは?

VNAを語る上で欠かせないのがSパラメータです。以下が基本的な定義です。

・S11:ポート1から入れた信号が、同じポートにどれだけ反射されたか(反射係数)
・S21:ポート1から入れた信号が、ポート2にどれだけ伝送されたか(伝送係数)
・S12:逆方向の伝送(ポート2→ポート1)
・S22:ポート2での反射

これらは周波数ごとに測定され、ゲイン、ロス、整合の評価に広く使われます。


なぜVNAが必要なのか?

従来の測定器では、周波数ごとの反射量(VSWRやリターンロス)を測定するにはネットワークアナライザが必要でしたが、スカラ型では位相情報が得られません。
ベクトル型であるVNAは、高周波回路やアンテナ、伝送路の特性を正確に把握するために不可欠です。

以下のような用途に欠かせません。

・RFアンプやフィルタの周波数特性の評価
・アンテナのインピーダンスマッチング確認
・基板の伝送路設計・整合確認
・コネクタ、ケーブル、デバイスのSパラ測定
・EMI対策における共振点の特定


主な活用例

●アンテナ評価
VNAを使えば、周波数ごとのS11を測定して、アンテナがどの帯域で共振しているか(整合がとれているか)を確認できます。整合が取れていない場合、リターンロスやVSWRが悪化し、送受信性能に影響します。

●フィルタ特性の確認
RFフィルタやパッシブ素子の通過帯域や遮断帯域、挿入損失などを周波数ごとにS21で可視化できます。位相変化も見られるため、群遅延の評価にも活用できます。

●ケーブルや基板の損失測定
長い同軸ケーブルやマイクロストリップラインの伝送損失、反射、整合などもVNAで高精度に測定可能です。

●Sパラメータファイルの生成
測定したSパラメータはTouchstone形式(.s1p/.s2p)で保存し、シミュレーションソフト(ADS, HFSS, CSTなど)にインポートして回路シミュレーションに活用できます。


校正(キャリブレーション)の重要性

VNA測定には「正しい基準点」が必要です。そのため、測定の前には必ず校正を行います。
標準的な校正方法には以下があります。

・SOLT(Short, Open, Load, Through)
・TRL(Thru-Reflect-Line)
・ECal(電子校正モジュールによる自動校正)

校正を行うことで、測定誤差やコネクタ間のミスマッチを排除し、信頼性の高い測定結果が得られます。


据え置き型とポータブル型の選び方

VNAには据え置き型とポータブル型があります。

・据え置き型(例:SIGLENT SNA5000A)
 → 高性能、多ポート対応、大画面表示。研究開発・製造向き。

・ポータブル型(例:OWON SHA850-VNAモデル)
 → 現場測定、EMI対策、アンテナ整合チェック向け。持ち運びやすく、EMCプリスキャン対応機種も。

ニーズに合わせて機種を選ぶことで、コストパフォーマンスと利便性の両立が可能です。


まとめ:VNAは高周波・RF設計の要となるツール

ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)は、単なる信号測定器ではありません。
Sパラメータという指標を通じて、高周波信号の世界を可視化し、整合・伝送・反射のすべてを数値とグラフで評価できる強力なツールです。

・アンテナやフィルタの特性把握
・伝送路やケーブルの最適化
・EMIの原因解析
・回路シミュレーションへのデータ活用

VNAは、RF技術者や開発者にとって欠かせない「設計と検証の橋渡し役」です。用途や予算に合わせた機種を導入し、安定した製品開発と品質管理に役立てましょう。