電子計測の分野では、「数値がどれくらい大きいか」だけでなく、「どれだけ変化したか」「何倍違うか」を評価する場面が非常に多くあります。
このような場合に不可欠となるのが、**対数(logarithm)**という考え方です。
対数は数学の計算技法ではなく、エンジニアのための数量比較ツールです。
対数とは何か(エンジニア直感で理解する)
指数表記が答えている問いは、「10の何乗でこの数値になるのか」です。
一方、対数が答えているのは、「この数値は、10の何乗に相当するのか」という問いです。
電子・計測分野では、特に断りがない限り、**log は底が10の常用対数(log₁₀)**を指します。
なぜ工学分野では常用対数(log₁₀)が使われるのか
エンジニアが常用対数を多用する理由は、主に次の3点です。
第一に、非常に広いダイナミックレンジを扱えること
第二に、掛け算の関係を足し算に変換できること
第三に、dB、dBm、dBV などの工学単位の基礎となること
このため、対数は以下の測定に深く関係しています。
・示波器の FFT スペクトラム
・スペクトラムアナライザの電力表示
・光スペクトラムアナライザ(OSA)の光パワー評価
示波器 FFT における対数の意味
示波器で FFT 解析を行い、線形スケールで周波数成分を表示すると、
主信号は非常に大きくノイズ成分は極端に小さく表示されます。
その結果、ノイズは画面上でほとんど見えなくなります。
ここで 対数スケール(Log表示、dB表示) に切り替えることで、
主成分
高調波
ノイズフロア
を同一画面上で同時に確認できるようになります。
これは対数の最大の利点である、ダイナミックレンジを圧縮して可視化する効果です。
常用対数の基本的な工学的理解
次の式を見たとき、log₁₀(100) = 2これは数学的な意味よりも、工学的には、「100 は 10 の 2 乗である」と理解することが重要です。
同様に、
log₁₀(1000) = 3
log₁₀(0.01) = −2
となります。
そのため、工学分野では、
正の対数値 → 1より大きい量
負の対数値 → 1より小さい量
という直感で扱われます。
対数の重要な性質(エンジニア必須)
工学計算で最も重要な性質は次の関係です。
log(A × B) = log(A) + log(B)
これは、掛け算で表される現象を足し算として扱えることを意味します。
この性質こそが、dB 単位が計測分野で広く使われる数学的基盤です。
スペクトラムアナライザにおける対数と dB
スペクトラムアナライザでは、信号の電力は通常 dBm で表示されます。
例えば、
入力電力が 10 倍になる
→ 表示は +10 dB
入力電力が 2 倍になる
→ 表示は 約 +3 dB
となります。
エンジニアは「絶対値」よりも、
**どれだけ変化したか(dB差)**に注目して評価を行います。
OSA(光スペクトラムアナライザ)における対数の役割
光通信分野では、OSA により光パワーを測定します。
これを線形単位(W)で表すと、
0.000001 W
0.0000001 W
のようになり、比較や判断が非常に困難になります。
一方、対数単位で表すと、
−30 dBm
−40 dBm
となり、光損失や変化量が直感的に理解できます。
OSNR、挿入損失、減衰評価において、対数表示は不可欠です。
エンジニアがよく陥る対数関連の誤り
対数を単なる数学公式として扱ってしまう
log の底が 10 であることを意識していない
dB を絶対量として誤解する
線形量と対数量を無意識に混在させる
基準(dBm / dBV / dBc)を確認しない
これらはすべて、測定判断ミスにつながる要因です。
T&Mとしての実務的提案
測定・評価・報告においては、以下を推奨します。
変化量を評価する場合は、対数または dB を使用する
dB 表記では必ず基準単位を明示する
示波器・スペアナ・OSA 間で表示単位を統一する
線形表示と対数表示を目的なく切り替えない
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