― 回路理論と電磁界の境界を理解する ―

回路設計や計測の基礎として、私たちは
キルヒホッフの電流則(KCL) と 電圧則(KVL) を学びます。

しかし、スイッチング電源や高速デジタル回路を時間ドメインで観測すると、

・「電流が分岐点で合わない」
・「閉ループなのに電圧和がゼロにならない」

と感じる波形に出会うことがあります。

これは測定ミスではなく、回路理論の前提条件が破れている領域に入っていることを意味します。



キルヒホッフの法則が成立する前提条件

キルヒホッフの法則は、次の前提のもとで成り立っています。

・回路サイズが十分に小さい
・電圧・電流が瞬時に全体へ伝わる
・電磁エネルギーが回路内部に閉じている

つまりこれは、低周波・準静的(quasi-static)な世界の法則です。



時間ドメインでノイズを見ると何が起きているか

時間ドメインでノイズを観測しているとき、
実際には次の現象が同時に起きています。

・電圧変化が有限の速度で伝搬している
・電流が「配線」ではなく「空間」を流れている
・エネルギーが電磁波として放射・結合している

この瞬間、回路はもはや「集中定数回路」ではありません。

 

オームの法則とキルヒホッフの再定義(工程視点)

J = σE

これは、

・E:電界
・σ:導電率
・J:電流密度

を結ぶ、電磁界ベースのオームの法則です。

重要なのは、電流は「電圧差」ではなく電界によって駆動されているという点です。

時間ドメインで急峻な立ち上がりがあると、強い電界変化が発生し、それがノイズの正体になります。


 

 

なぜ「リターン電流」が重要になるのか

すべての電流は、**必ず戻り道(リターンパス)**を持ちます。

低周波では、そのリターンは回路図通りに戻ります。

しかし高速では、

・最短距離
・最小インダクタンス
・電界が最も強い経路

を選んで戻ります。

このとき、回路図に描かれていない経路を流れる電流が時間ドメインノイズとして観測されます。



時間ドメインノイズの正体(まとめると)

時間ドメインで見えるノイズとは、

・キルヒホッフが破れた現象ではなく
・電磁界としてのエネルギー移動が可視化された姿

です。

オシロスコープで見ているスパイクやリンギングは、電圧・電流ではなく電界・磁界の振る舞いの結果です。



直感的に理解するための概念図(回路 vs 高速現象)

① 低周波:キルヒホッフが成立する世界

・電流は回路図通りに流れる
・分岐点で電流は必ず一致
・電圧和はゼロ


② 高速・時間ドメイン:電磁界が支配する世界

・電流は電界に沿って戻る
・リターン電流が面で広がる
・放射・結合が発生

 

計測エンジニア向け実務ポイント(T&M視点)

時間ドメインでノイズを見るときは、次を必ず意識してください。

・回路図だけで考えない
・「どこに電界が立っているか」を考える
・リターン電流の経路を想像する
・測定系(GND、プローブ)も回路の一部と考える

これができると、ノイズは「謎」ではなく理由のある現象に変わります。



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