
― TH2883Sシリーズの測定性能と4種の比較ロジック ―
1. 一般仕様の概観
TH2883S8-5/S4-5は、以下の基本性能を備えています:
項目 | TH2883S8-5 | TH2883S4-5 |
インパルス電圧 | 100V~5000V(10Vステップ)±5%±15V | |
チャネル数 | 8 | 4 |
インダクタンス測定範囲 | ≧10μH | |
最大インパルスエネルギー | 0.25ジュール | |
テスト速度 | 最大6回/秒(シングルチャネル) | |
パルス回数 | 最大32回 | |
入力インピーダンス | 5MΩ | |
波形取得 | 最大200Msps、8ビット解像度、6kバイトメモリ深度 | |
表示装置 | 800×480ドット 65kカラーTFT | |
トリガモード | マニュアル、外部、バス、内部 | |
結果表示 | OK/NG、LED、ブザー警告 | |
メモリ | 標準波形・設定ファイルを20件保存可能(USB対応) | |
インターフェース | RS232C、USB Device/Host、LAN、ハンドラー |
IEC61010-1およびIEC61326-2-1の安全・EMC基準に適合しています。
2. 波形比較手法の詳細
TH2883シリーズは、以下の4種類の波形比較機能を備えており、標準波形との比較により異常判定を行います。
2.1 エリアサイズ比較(Area Size)
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概要:標準波形と測定波形のA〜B間のエリア(積分値)を算出し、その差分を%で評価。
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用途:巻線内部の層間短絡などによりエネルギー損失が増加しているかを検出。
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補足:図2-1で示される比較区間は、積分面積の変化として視覚化されます。
2.2 差分エリア比較(Differential Area)
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概要:標準波形と測定波形の差分エリアをA〜B間で算出。偏差率で評価。
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用途:インダクタンスのばらつきや材料特性の差異を反映しやすく、巻線の仕様一致性検証に最適。
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補足:図2-2における影付き領域が差分エリアです。
2.3 コロナ放電比較(Corona Discharge)
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概要:高周波成分を検出し、指定区間A〜B間のコロナ成分の大きさを評価。
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判定基準:設定されたコロナ差分リミット以下でPASS、それ以上でFAIL。
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実用ポイント:
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例:10個の正常コイルをサンプルとして測定し、最大コロナ値に20%上乗せしてしきい値を設定。
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評価値は整数(1〜255)として扱われます。
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2.4 位相差比較(Differential Phase)
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概要:指定されたゼロクロス点(2~10)で、標準波形との時間ずれや周期の差を%で評価。
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判定種類:
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PASS
: 基準内 -
FAIL
: 基準外 -
FAIL1
: ゼロクロス点を検出できない -
FAIL2
: 標準波形に1周期が存在しない
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注意点:最初のゼロクロス点(第1点)は信頼性が低いため使用されません。
3. 比較手法の活用例と推奨設定
比較手法 |
主な検出対象 |
推奨用途 |
Area Size |
エネルギー損失の増加 |
層間短絡や内部劣化の検出 |
Diff Area |
インダクタンス差 |
製品仕様の一致性確認 |
Corona |
微小放電・絶縁劣化 |
高電圧巻線・新製品の評価 |
Phase Diff |
巻線配置ミス、周波数応答異常 |
構造的な不均衡の検出 |
インパルス巻線試験器の入門①- 試験原理・構成・基本仕様の理解
インパルス巻線試験器の入門②-主要仕様と波形比較手法の解説
インパルス巻線試験器の入門③-測定表示とディスプレイ機能
インパルス巻線試験器の入門④-比較方式と判定アルゴリズム
インパルス巻線試験器の入門⑤-測定設定と試験ステップの構成(SETUP)
インパルス巻線試験器の入門⑥-システム設定と通信インターフェースの管理
インパルス巻線試験器の入門⑦-操作手順と標準波形の作成
インパルス巻線試験器の入門⑧-リモート制御用コマンドとSCPI準拠インターフェース
インパルス巻線試験器の入門⑨-ファイル管理とUSB/内部メモリ活用法
インパルス巻線試験器の入門⑩-インパルス試験の応用と実践的トラブル対応例