
― 異常波形の診断・測定精度の向上・故障例の解析手法 ―
本章では、TH2883Sシリーズを用いたインパルス試験の応用事例、および現場で頻出する測定トラブルに対する対処法・診断ポイントについて解説します。製品評価や品質管理の精度向上に役立つ実践的な知識をまとめています。
1. 応用事例:巻線製品のインパルス評価
TH2883Sシリーズは、次のような用途における評価に適しています:
対象製品 | 応用内容 |
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小型モータ | 巻線間絶縁の劣化診断、トルクばらつきの間接評価 |
トランスコイル | 巻線のショート・断線・開放の検出 |
ソレノイドバルブ | 動作不良品の選別と逆起電力波形確認 |
車載インバータ | 低電圧部のインパルスストレスチェック |
特に高電圧印加での微小コロナ放電の検出や多チャネルによるステップ測定は他装置と比較して高い実用性を誇ります。
2. 実波形の見方と異常例
2.1 正常波形の特徴
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緩やかに減衰する過渡応答
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ノイズやトゲが少ない
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繰り返し波形間で変動が少ない
2.2 異常波形の代表例
異常種類 | 波形の特徴 | 原因例 |
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短絡 | 立ち上がり直後に急激な減衰 | ターン間ショート/はんだブリッジ |
断線 | 応答信号なし、または極端に小さい | コイル不接触 |
コロナ放電 | 高周波成分の混入(ノコギリ状) | 絶縁劣化・封止不良 |
トリガ遅延 | 波形が画面外または後方に表示 | 外部信号との同期ズレ |
3. トラブルシューティング(よくある質問と対処法)
3.1 波形が出ない
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対策:
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チャネル設定(CH1~8)がすべて「CLOSE」になっていないか確認
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測定ステップが空(未設定)でないか確認
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サンプリングレートや電圧設定が不適切でないか確認
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3.2 PASS判定されない
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対策:
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標準波形が正しく取得されているか確認
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比較位置(Position)が有効な範囲(0~6000)に設定されているか確認
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比較方式がOFFになっていないか確認(Comparator)
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3.3 USBが認識されない
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対策:
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FAT32でフォーマットされたUSBか確認
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挿抜タイミングを誤っていないか確認
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USBポートに破損やゆるみがないか点検
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4. 波形の診断と解析のコツ
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**波形重ね表示(Display: Multi)**で複数ステップを同時比較
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**拡大表示(Scale ×2 / ×3)**で微細な異常を視認
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**2nd表示切替(コロナ量 or 設定情報)**で解析精度向上
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ΔV/ΔT測定機能で異常波形の数値比較を実施
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**統計画面(Statistics)**で傾向異常の早期検出
5. 故障や異常発見後の対応フロー(推奨)
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比較設定を一時OFFにし、波形だけ観察
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正常品とNG品を同一条件で再測定
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標準波形の再取得(Match Setup)
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サンプリングやインパルス条件を段階的に変化
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CSV保存でPC解析(Excel、Pythonなど)
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DUTの構造・巻数・材料変更履歴を確認
6. 分析支援ツールとソフトウェア連携(将来的展望)
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CSVやバイナリデータを取り込むことで、AI異常検出モデルとの連携が可能
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Webサーバ経由での遠隔監視、クラウド記録にも対応予定(LXI活用)
まとめ
インパルス巻線試験は、電気的絶縁の健全性を非破壊で評価できる極めて有効な方法です。TH2883Sシリーズの高度な比較アルゴリズムと多彩な表示・制御機能を活用することで、手動検査から自動選別まであらゆるフェーズでの品質保証に貢献できます。
日常点検、装置の設定確認、波形診断スキルの向上を意識することで、安定した試験体制と高い信頼性を実現できます。
インパルス巻線試験器の入門①- 試験原理・構成・基本仕様の理解
インパルス巻線試験器の入門②-主要仕様と波形比較手法の解説
インパルス巻線試験器の入門③-測定表示とディスプレイ機能
インパルス巻線試験器の入門④-比較方式と判定アルゴリズム
インパルス巻線試験器の入門⑤-測定設定と試験ステップの構成(SETUP)
インパルス巻線試験器の入門⑥-システム設定と通信インターフェースの管理
インパルス巻線試験器の入門⑦-操作手順と標準波形の作成
インパルス巻線試験器の入門⑧-リモート制御用コマンドとSCPI準拠インターフェース
インパルス巻線試験器の入門⑨-ファイル管理とUSB/内部メモリ活用法
インパルス巻線試験器の入門⑩-インパルス試験の応用と実践的トラブル対応例