
SOT-MRAM(スピン軌道トルク磁気抵抗メモリ)は、不揮発性メモリであるMRAMの一種です。特に、その書き込み方法にスピン軌道トルクと呼ばれる物理現象を利用しているのが大きな特徴です。
従来のMRAMであるSTT-MRAM(スピン移行トルクMRAM)が、書き込み電流を磁気抵抗素子(MTJ)そのものに直接流すことで磁化の向きを反転させるのに対し、SOT-MRAMはMTJとは別のスピン軌道トルク層に電流を流します。この層に流れた電流がスピンの流れを生成し、それがMTJの磁化を高速に反転させます。
SOT-MRAMの主な利点
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高速動作: スピン軌道トルクは非常に高速に磁化を反転させることができるため、ナノ秒以下の高速な書き込みが可能です。
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高い書き換え耐性: 書き込み電流がMTJを通過しないため、素子の劣化が少なく、書き換え回数が大幅に増えます。これは、STT-MRAMの課題であったリードディスターブ(読み出し時の誤書き込み)も克服できます。
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低消費電力: 高速かつ効率的な書き込みメカニズムにより、消費電力が削減されます。
SOT-MRAMの課題
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セルサイズの増大: 従来のSOT-MRAMは、書き込みと読み出しの経路を分離するために3端子構造となり、セルサイズが大きくなる傾向がありました。
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外部磁場の必要性: 多くのSOT-MRAMは、書き込み時に磁化の向きを一意に決定するために外部磁場が必要となる場合があります。この課題を克服するための研究開発が進められています。
これらの課題を解決するため、より小さな2端子構造や、外部磁場なしで動作する技術の研究が進められています。SOT-MRAMは、その高速性や高い書き換え耐性から、将来的にはキャッシュメモリや組み込み用途でのSRAM(スタティックRAM)の代替としても期待されています。
東北大学は、次世代型磁気メモリであるSOT-MRAM (スピン軌道トルク磁気抵抗メモリ) の研究開発において世界をリードしています。特に、高速動作と低消費電力の両立を目指した技術開発に注力しており、SOT-MRAMの実用化に向けた重要な成果を多数発表しています。
SOT-MRAM技術の特徴と東北大学の取り組み
SOT-MRAMは、磁気トンネル接合(MTJ)素子に電流を流すことで磁化の向きを変化させてデータを書き込むスピントロニクス技術を応用した不揮発性メモリです。従来のSTT-MRAMと比較して、読み出しと書き込みの経路が分離されているため、書き込みの高速化と長寿命化が可能です。
東北大学は、国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)を中心に、SOT-MRAMの技術革新を推進しています。これまでの主な研究成果は以下の通りです。
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世界初の動作実証: 2019年には、400℃の熱処理に耐え、10年間のデータ保持特性を持つSOT-MRAMセルの動作実証に世界で初めて成功しました。これは、既存の半導体製造プロセスとの高い親和性を示しています。
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低消費電力化: 2025年5月には、SOT-MRAMの書き込み動作電力を従来比で35%削減することに成功し、世界最小の低消費電力動作を実証しました。これはAI向けのメモリ技術として特に重要です。
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チップでの動作実証: 2020年には、デュアルポート型SOT-MRAMチップの動作実証に成功し、読み書き同時処理機能を実現しました。これは、高速キャッシュメモリの代替としてSOT-MRAMを応用する道を開くものです。
今後の展望
東北大学の研究は、SOT-MRAMが持つ高速・低消費電力・高耐久性といった利点を最大限に引き出し、実用化の課題を解決することを目指しています。今後、材料の革新や構造の最適化を通じて、さらなる性能向上が期待されており、揮発性メモリ(DRAMやSRAMなど)の置き換えや、ロジックとメモリを統合した新しいアーキテクチャの実現に貢献すると考えられています。
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