TECHMIZE社 インピーダンス・アナライザ  TH2851シリーズ

GaNデバイスの高速スイッチング時に問題となるセルフターンオンは、主にミラー効果によって発生する誤作動です。これを低減するには、ゲート駆動回路の改善レイアウトの最適化が重要となります。

 

セルフターンオンのメカニズム

 

ハーフブリッジ回路では、一方のスイッチがオフからオンに切り替わる際、ドレイン・ソース間の電圧が急峻に変化(高い)します。このによって、ゲート・ドレイン間容量(ミラー容量を介してゲート・ソース間に電流が流れ込み、ゲート・ソース間電圧VgsVgsVthを超えると、本来オフであるべきデバイスが誤ってオンになってしまい、短絡(シュートスルー)を引き起こす可能性があります。

この問題の根本は、CrssとCiss(ゲート・ソース間容量CgsとCgdの合計)の容量比にあります。GaNデバイスは一般的にCgsに対してCgdが小さい傾向にありますが、それでも高速スイッチングによるdV/dtの影響を無視できません。

 

セルフターンオンのリスク低減方法

 

セルフターンオンのリスクを低減する主な方法は以下の通りです。

 

1. 負のゲートバイアスの使用

 

ゲートオフ時に負の電圧(例:-2V)を印加することで、VgsVthを上回ることを防ぎ、ノイズに対する耐性を高めます。これにより、安全マージンが大幅に向上します。

 

2. ミラークランプ回路の導入

 

ゲート駆動回路にミラークランプ回路を追加する方法です。この回路は、スイッチオフ時にゲート・ソース間を低インピーダンスで短絡させ、Crssを介して流れ込む電流をグランドにバイパスさせることで、Vgsの上昇を効果的に抑制します。

 

3. ゲート抵抗の最適化

 

ターンオフ用のゲート抵抗を小さくすることで、ゲートから電荷が速やかに引き抜かれ、Vgsの上昇を抑制できます。ただし、RGONRGOFFの値を独立して調整できる独立型ゲートドライバーICが有効です。

 

4. レイアウトの最適化

 

寄生インダクタンスを最小限に抑えることが非常に重要です。特に、共通ソースインダクタンス)は、スイッチング時に発生する電圧スパイクをゲートに誘導し、セルフターンオンを悪化させる最大の要因となります。ゲート駆動ループとパワーループを可能な限り短く、そして太くすることで、寄生インダクタンスを最小化できます。

 

Crss/Cissの容量比について

 

Crss/Cissの比率そのものを物理的に下げることは、GaNデバイスの構造上の特性に依存します。しかし、デバイス選定の際にはこの比率が小さいほど、セルフターンオンのリスクが低いと判断できます。一般的に、GaNデバイスはSi-MOSFETに比べてこの比率が小さい傾向にあり、それが高速スイッチング性能の一因となっています。

また、カスケード接続GaNデバイスのように、より高いVthVthを上げてセルフターンオン耐性を向上させる手法もあります。

 

この図は、セルフターンオン現象を分かりやすく解説しています。

 

出典:第 4 世代 SiC MOSFET ディスクリートパッケージ 諸特性と回路設計の注意点 アプリケーションノート (ROHM)

 

 

 

 

 

 
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第6回 Si-IGBTの新構造が続々登場!進化はまだまだ止まらない
第7回 SiC, GaN, 酸化ガリウムGa2O3, ダイヤモンド半導体を全部解説
第8回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信
第9回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) c)太陽光発電 e)蓄電システム
第10回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) e)UPS f) インダクション・ヒーター
第11回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) g) 急速充電 h) ワイヤレス給電
第12回(シリーズ最終回) SiCパワー半導体の電気自動車EVへの使用例(走行用インバータ、オンボード充電器を一気に解説)
 
【本パワエレ基礎コースの目次】
1.パワーエレクトロニクスの基本の基本編 a)パワー半導体デバイスの種類 次世代パワー半導体の理解を目的に分類し特長を解説 (整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBT、GTO) b)そもそも電力変換って、何のために、何をしてるの? 4方式(DCDC、DCAC、ACDC、ACAC)の例を挙げて理解
2.損失の考え方と電力変換の高効率化 a)電力変換とは?その測定例 b)高効率が求められる背景 c)MOSFET損失の簡単な計算例 d)Web回路シミュレーターの活用
3.次世代パワーデバイスの種類と概説 a)Si-IGBTの新構造が続々登場 b)シリコンカーバイド c)窒化ガリウム d)酸化ガリウム e)ダイヤモンド
4.パワーデバイスの最新応用例 (特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信 c)太陽光発電 d) 蓄電システム e) UPS f)インダクション・ヒーター g)急速充電 h) ワイヤレス給電 i) 電気自動車への利用(オンボード充電器、トラクションモーター)
5. その他(本シリーズ外で動画公開中+順次新規公開) a)パワーデバイスの市場動向(2,3カ月毎) b)パワーMOSFETの高性能を引き出す設計例 c)新興アプリケーション紹介
 
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出典:SiCパワー半導体推進部