
ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)におけるデータスペース開発は、企業・業界の垣根を越えた、安全で信頼性の高いデータ流通・利活用を実現するための共通基盤を構築し、社会実装を加速させる取り組みです。
経済産業省が推進するこの構想は、ギリシャ神話の天空の神「ウラノス」に由来し、官民協調で産業競争力の強化と社会課題の解決を目指しています。
データスペース開発の現状と目的
ウラノス・エコシステムにおけるデータスペース開発は、主にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募事業や、IPA(情報処理推進機構)を中心とした技術開発を通じて進められています。
1. 開発の主な目的
目的 | 詳細 |
データ主権の担保 | データ提供者が「誰に、いつ、どのように、いくらで」データを利用させるかを自己決定できる仕組み(データ主権)を確保すること。欧州のデータ共有圏の重要なコンセプトを取り入れています。 |
相互運用性の実現 | 異なる企業や業界、さらには海外のデータプラットフォームとも連携・接続できるための共通の**技術仕様(アーキテクチャ)**を定義・実装すること。 |
共通基盤の構築 | 多様なユースケースで活用できるよう、構築・拡張・運用が容易な拡張性の高い共通的な仕組みを設計・開発し、広範な業界への展開を目指すこと。 |
2. 技術的指針(Open Data Spaces)
IPAが推進する「Open Data Spaces」(ODS)という技術コンセプトが、ウラノス・エコシステムのデータスペース開発における共通の技術的指針となっています。
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ODS-RAM (Reference Architecture Model): サービス主導のデータスペース構築に向けたアーキテクチャモデル(設計図)。
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ODP (Protocol): ODS-RAMを具体化した技術仕様。
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ODS Middleware: プロトコル準拠のための参照実装となるオープンソースソフトウェア(OSS)。
これらの技術文書を参照することで、国内の主要なデータスペースの取り組み(例:DSAが推進するDATA-EXなど)との技術的連携が図られています。
3. 具体的なユースケース(先行事例)
データスペース開発は、概念的な議論だけでなく、具体的な産業分野での実証・社会実装が進められています。
蓄電池・自動車サプライチェーン
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目的: 脱炭素化や循環経済の実現に向け、カーボンフットプリント(CFP)データなど、蓄電池のトレーサビリティデータをサプライチェーン上で安全かつ円滑に連携させること。
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事業体: 自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)が設立され、業界横断的なデータ共有システムの運営を担っています。
その他
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化学物質管理: 製品含有化学物質情報を川上から川下まで迅速に連携させるシステム。
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引越し手続きのワンストップサービス: 賃貸住宅、電気、ガス、インターネットなどのサービス提供事業者間で入居者の申込情報を連携し、引越しに伴う各種手続きを簡素化。
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電力データ提供: スマートメーターから得られる電力データを、データ主権を担保しつつ、利用会員へ提供する仕組み。
これらの取り組みは、企業間の協調領域(競争ではなく協力して取り組む領域)でデータを活用し、産業の効率化と社会課題の解決を目指すものです。