TECHMIZE社 インピーダンス・アナライザ  TH2851シリーズ

短チャネル効果(Short-Channel Effect: SCE)とサブスレッショルドリーク(Subthreshold Leakage)は、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の微細化に伴って発生する、デバイス特性の劣化に関わる重要な課題です。


 

1. 短チャネル効果(SCE)の概要

 

短チャネル効果は、トランジスタのチャネル長(ゲート長)が非常に短くなったときに、ゲート電極がチャネル電流を完全に制御できなくなる現象の総称です。

 

メカニズム

 

通常の長いチャネルのトランジスタでは、ゲート電極がチャネル領域全体の電位を制御しています。しかし、チャネル長が短くなると、以下の要因でチャネルの制御が妨げられます。

  1. ドレインによるチャネル制御: ソース・ドレイン間の距離が短くなることで、ドレイン電極の電界がチャネル領域のソース側にまで影響を及ぼすようになります。これにより、ドレイン電圧(VDS)の上昇とともに閾値電圧(Vth)が低下します(DIBL: Drain-Induced Barrier Lowering)。

  2. パンチスルー(Punch-Through): ソースとドレインの空乏層がチャネル中央で接触し、ゲート電圧に関係なくソースからドレインへ電流が流れやすくなります。

 

影響

 

  • 閾値電圧の変動: VDSによってVthが大きく変動し、回路設計が難しくなります。

  • オフ電流の増大:Vthの低下により、トランジスタのオフ状態(VGS=0)での漏れ電流が増加し、消費電力が増えます。


 

2. サブスレッショルドリーク(Subthreshold Leakage)

 

サブスレッショルドリークは、トランジスタをオフにするためにゲート電圧(VGS)が閾値電圧(Vth)よりも低い状態で印加されているにもかかわらず、ソースからドレインへ流れてしまう微小な漏れ電流のことです。これは、SCEによる影響の一つでもあります。

 

メカニズム

 

$V_{\text{GS}} < V_{\text{th}}$ のとき、チャネルには反転層が形成されず、理想的には電流は流れません。しかし、実際にはキャリア(電子)が熱エネルギーによってソース側の障壁を乗り越えて拡散することで、指数関数的に微小な電流が流れます。

この電流は、サブスレッショルドスイング(SS: Subthreshold Swing)という指標でその制御の良さが評価されます。理想的なSSは60mV/decade(ゲート電圧を60mV変えるごとに電流が1桁変化する)ですが、SCEの影響などによりこの値が悪化します。

 

影響

 

  • 待機時消費電力の増大: トランジスタの数が増え、ほとんどのトランジスタがオフ状態(待機状態)にある現代のLSIでは、サブスレッショルドリークが全体の消費電力の主要因となるため、大きな問題となります。


 

3. SCEとサブスレッショルドリークの対策

 

これらの問題を克服し、微細化を進めるために、トランジスタ構造は平面型から立体構造へと進化してきました。

構造 対策原理
FinFET チャネルをフィン状に立て、ゲートで3面を囲むことで、ゲートのチャネルに対する制御力(静電制御)を強化し、DIBLやサブスレッショルドリークを抑制。
GAA (Gate-All-Around) ゲートがチャネルを全周(4面)から囲むことで、FinFETよりもさらに高い静電制御性を実現し、極限の微細化(3 nmノード以下)に対応。
FD-SOI 超薄膜のSi層をチャネルに用い、その下層を絶縁膜で完全に空乏化させる(完全空乏化)ことで、チャネルの制御性を高め、SCEを抑制。
高$\kappa$ゲート絶縁膜

ゲート絶縁膜の比誘電率(κ)を上げることで、ゲート容量を増やし、ゲート電界の影響を強化してチャネル制御を改善。