ベイパーチャンバー(Vapor Chamber: VC)は、主に高性能な電子機器の熱管理に使われる、非常に効率的な熱伝導・放熱部品です。スマートフォン(特にProモデル)、高性能ノートPC、ゲーム機、サーバーなどで広く採用されています。
1. ベイパーチャンバーの基本原理 ⚙️
VCの動作原理は、ヒートパイプと同様に、液体の相変化(蒸発と凝縮)のメカニズムを利用しています。
| 要素 | 働き |
| 筐体 | 平らで密閉された金属(通常は銅)の容器(チャンバー)。 |
| 作動液 | 少量封入された純水などの液体。熱源から熱を奪い、蒸発する役割を担います。 |
| ウィック構造 | チャンバーの内壁に設けられた微細な多孔質構造(メッシュや焼結金属)。凝縮した作動液を毛細管現象で蒸発部に還流させます。 |
動作の流れ
-
蒸発(吸熱): CPUやGPUなどの発熱部に接している部分(蒸発部)で、作動液が熱を吸収し、蒸気に相変化します(潜熱)。
-
移動: 発生した蒸気は、密閉されたチャンバー内の圧力差を利用して、瞬時にチャンバーの隅々(比較的温度の低い部分)へ広がります。
-
凝縮(放熱): 広がった蒸気は、温度の低いチャンバーの内壁(凝縮部)に接触して液化し、熱を外側の筐体やヒートシンクへ放出します。
-
還流: 液化した作動液は、ウィック構造の毛細管現象によって再び蒸発部へ戻り、このサイクルを繰り返します。
2. VCの主なメリット(なぜ高性能機器に必要か)
VCは、従来の純粋な金属(銅など)のヒートスプレッダーと比較して、格段に高い実効熱伝導率を持ちます。
-
高い熱輸送能力: 作動液の相変化(蒸発・凝縮)は非常に効率的で、熱を極めて高速かつ大量に輸送できます。
-
均一な熱分散: 熱源周辺の熱を瞬時にチャンバー全体に広げ、均一な温度分布を作り出すことで、特定の場所での異常な温度上昇(ホットスポット)を防ぎます。
-
薄型化への貢献: 従来のヒートパイプが線状の熱輸送しかできないのに対し、$\text{VC}$は平面的に熱を輸送・分散できるため、高性能でありながら薄型のデバイス設計に適しています。
3. ヒートパイプとの違い
VCはヒートパイプの原理を応用したものですが、形状と熱輸送能力に違いがあります。
| 特徴 | ベイパーチャンバー (VC) | ヒートパイプ (HP) |
| 形状 | 平面状(板状、チャンバー状) | 円筒状(パイプ状) |
| 熱輸送 | 面的に広範囲に熱を分散・輸送 | 線的に熱源から離れた場所に輸送 |
| 伝導率 | 非常に高い(効果的な分散により) | 高い(主に線方向に強い) |
| 用途 | SoCなど一点集中の高発熱を広範囲に分散させたい場合に最適 |
ノートPCなど、熱を離れたフィンへ運ぶ場合に最適 |
この動画では、iPhone 17 Proに導入されたベイパーチャンバー冷却システムがいかに大きなアップグレードであるかを解説しています: iPhone 17 Pro の冷却技術。



