SIGLENT(シグレント)SDS3000X HDシリーズ デジタル・オシロスコープ

パワーデバイスのウェハプロセスは、スマートフォンやPCに使われる論理チップ(ロジックIC)やメモリチップのプロセスとは、目的とする機能と扱うエネルギーが根本的に異なるため、いくつかの点で大きく異なります。

主な違いを以下の表にまとめました。

特徴 パワーデバイス(例: SiC MOSFET、IGBT) 論理チップ(例: CPU、GPU、DRAM)
主な機能 高電圧・大電流の制御(スイッチング、電力変換) 演算・記憶(データ処理、信号処理)
主要材料 Siに加え、SiC(炭化ケイ素)GaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体が増加 ほぼSi(シリコン)
プロセス注力点 高耐圧化、低抵抗化、放熱性 微細化、高集積化、高速化
素子構造 **垂直型(Vertical Structure)**が多い **プレーナ型(Planar Structure)**が多い
ウェハの厚み 厚い(高耐圧層を確保するため) 薄い(熱抵抗低減のため、最終的に薄く加工)
裏面処理 重要(大電流の経路、放熱のための金属形成) 表面の回路形成が主

 

1. 扱う材料と構造の違い

 

 

⚡ 高耐圧・ワイドバンドギャップ材料

 

  • パワーデバイス:高電圧に耐え、スイッチング時の電力損失を減らすため、従来のSiに加え、SiCやGaNが主役になりつつあります。

    • SiCGaNSiよりも加工が非常に難しく、結晶欠陥の低減や高品質なエピタキシャル成長(結晶層をきれいに積む技術)がプロセスの大きな課題となります。

  • 論理チップ:主にSiが使われ、プロセス技術は微細な回路を形成する方向(微細化)に特化しています。

 

📏 垂直構造と厚いウェハ

 

  • パワーデバイス:大電流を流すため、ウェハの表面から裏面にかけて電流を流す垂直構造 が主流です。高耐圧を確保するためのドリフト層と呼ばれる層が必要なため、ウェハ自体の厚み(数百μm 単位)を比較的厚く保つ必要があります。

  • 論理チップ:電流はウェハの表面に沿って流れるプレーナ構造が主で、ウェハの厚みはデバイス特性に直接関係しません(最終的には放熱のために極限まで薄くされます)。

 

2. プロセス技術の注力点の違い

 

 

🌡️ 大電流経路と放熱性

 

  • パワーデバイス:大電流を流すと発熱が大きくなるため、低オン抵抗化放熱性の確保が最重要です。

    • 裏面プロセス: ウェハの裏面(ボトム側)に、大電流を取り出すための電極(金属)を厚く形成するプロセスが非常に重要になります。

    • 高温アニール: SiCGaNでは、オーミックコンタクト(電気的に抵抗の低い接続)を得るために**非常に高温での熱処理**(アニール)が必要となり、Siプロセスとは異なる独自の技術が必要です。

 

💻 微細化と集積度

 

  • 論理チップ:ムーアの法則に従い、トランジスタの数を増やすための微細化(ナノメートルスケール)、すなわちリソグラフィ技術の極限の精度が最も重要です。

    • 配線層: デバイス表面に多数の金属配線層を積み重ね、複雑な論理回路を実現します。

要約すると、論理チップは「小さく、速く、複雑に」を目指し、パワーデバイスは「大きく、強く、損失なく」電力を制御することを目指しているため、プロセス技術の重点が根本的に異なっています。


 

 

 

 

 
下記資料では「次世代パワー半導体を理解するためのパワエレ基礎」について動画で詳しく解説されています。
 
 
次世代パワー半導体を理解するためのパワエレ基礎コース-パワエレ初級から中・上級へステップアップしよう!全12回視聴して、初級から中・上級へステップアップ確実!うけおいます! 【本シリーズ全12回のリスト】
第1回 整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、ショットキーバリアダイオードの基本原理を理解し、バイポーラ型・ユニポーラ型の長所短所を知ろう
第2回 MOSFET、IGBT、サイリスタの基本原理を理解し、オンオフさせる妙技を知ろう   • ②MOSFET、IGBT、サイリスタの基本原理を理解し、オンオフさせる妙技を知ろう-...  
第3回 そもそも電力変換って何?4つの方式を知るだけで全ての電力変換がわかる    • ③そもそも電力変換って何?4つの方式を知るだけで全ての電力変換がわかる-次世代パワー...  
第4回 電力変換効率とその計算法と省エネが求められる諸般の事情+蛍や人間の生態系エネルギー効率は?
第5回 Web回路シミュレーターの活用(ボタンを選択するだけ!パワエレの回路動作がビジュアルで理解できる便利な無料ツール!)
第6回 Si-IGBTの新構造が続々登場!進化はまだまだ止まらない
第7回 SiC, GaN, 酸化ガリウムGa2O3, ダイヤモンド半導体を全部解説
第8回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信
第9回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) c)太陽光発電 e)蓄電システム
第10回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) e)UPS f) インダクション・ヒーター
第11回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) g) 急速充電 h) ワイヤレス給電
第12回(シリーズ最終回) SiCパワー半導体の電気自動車EVへの使用例(走行用インバータ、オンボード充電器を一気に解説)
 
【本パワエレ基礎コースの目次】
1.パワーエレクトロニクスの基本の基本編 a)パワー半導体デバイスの種類 次世代パワー半導体の理解を目的に分類し特長を解説 (整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBT、GTO) b)そもそも電力変換って、何のために、何をしてるの? 4方式(DCDC、DCAC、ACDC、ACAC)の例を挙げて理解
2.損失の考え方と電力変換の高効率化 a)電力変換とは?その測定例 b)高効率が求められる背景 c)MOSFET損失の簡単な計算例 d)Web回路シミュレーターの活用
3.次世代パワーデバイスの種類と概説 a)Si-IGBTの新構造が続々登場 b)シリコンカーバイド c)窒化ガリウム d)酸化ガリウム e)ダイヤモンド
4.パワーデバイスの最新応用例 (特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信 c)太陽光発電 d) 蓄電システム e) UPS f)インダクション・ヒーター g)急速充電 h) ワイヤレス給電 i) 電気自動車への利用(オンボード充電器、トラクションモーター)
5. その他(本シリーズ外で動画公開中+順次新規公開) a)パワーデバイスの市場動向(2,3カ月毎) b)パワーMOSFETの高性能を引き出す設計例 c)新興アプリケーション紹介
 
--------このチャンネルの目的------------
 
SiCパワーデバイスの最新技術や特徴を分かりやすく説明したYouTubeチャンネルです。    / @sic-powersemiconductor   パワー半導体とは?なんに役立ってるの? 最近よく聞くワイドバンドギャップ・パワー半導体って何? なぜ今、SiC、GaN、酸化ガリウムやダイヤモンドが注目を浴びているの? シリコンのパワー半導体と比べて何が違うの?その特徴と長所は? どんなところ(装置や製品)に使われるの? パワー半導体の旬な情報を丁寧に分かりやすい動画にしてアップしています。 資料のご請求・ご質問がありましたらいつでもご連絡下さい。
 
出典:SiCパワー半導体推進部