🛡️ RoCEv2とロスレス通信の必要性
RoCEv2 (RDMA over Converged Ethernet version 2) は、標準的なイーサネット上でRDMA(Remote Direct Memory Access)を実現する技術ですが、その高い性能、特に超低遅延と高スループットを維持するためには、ネットワークがロスレス(無損失) であることが絶対条件となります。
1. ロスレスが必須である理由
RDMAは、CPUの関与をバイパスしてメモリ間でデータを直接転送します。このプロセスは、従来のTCP/IP通信とは根本的に異なります。
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TCPの仕組み: 従来のTCPは、パケットロスを輻輳のシグナルとみなし、パケットがドロップされると再送と送信速度の低下によって回復を試みます。
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RoCE/RDMAの特性: RoCEは、通常、TCPではなく信頼性の低いUDPの上に構築されます(ただし、信頼性のためのプロトコル層はRDMAスタックに含まれます)。
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パケットロス発生時のペナルティ: RoCE通信でパケットロスが発生すると、RDMA層での回復処理が必要となり、そのプロセスは非常に複雑で時間がかかります。
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大幅な遅延と性能低下: 一度パケットロスが発生すると、再送処理のためにエンドツーエンドの遅延が大幅に増加し、RDMAの主要なメリットである超低遅延が失われ、結果としてAI/HPCワークロード全体の効率が大きく低下します。
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したがって、RoCEv2ベースのネットワークでは、パケットがルーターやスイッチのバッファで溢れてドロップされることを回避し、ネットワーク層でのロスレスを保証する必要があります。
2. RoCEv2環境におけるロスレス実現技術
RoCEv2ネットワークでロスレスを実現するために、通常、以下の技術が組み合わせて使用されます。
① PFC (Priority Flow Control)
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役割: イーサネットレベル(レイヤー2)で輻輳が発生しそうな際、特定トラフィック(RDMAなど)に対して上流の送信元に一時停止を指示するメカニズムです。
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効果: スイッチのバッファが溢れるのを防ぎ、パケットドロップを防ぎます。
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課題: PFCが広範囲に伝播するとデッドロックやPFCストームを引き起こし、ネットワーク全体のスループットを低下させる可能性があります。
② ECN (Explicit Congestion Notification)
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役割: パケットをドロップする前に輻輳が発生していることをパケットヘッダーのフラグで明示的に通知し、ホスト側(送信元)に送信レートを下げさせます。
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効果: ドロップによる再送を回避し、PFCの発生頻度を抑えることで、ネットワーク効率を改善します。
③ DCQCN / iLossless (高度な輻輳制御)
高性能なRoCEv2ネットワークでは、PFCとECNの課題を克服するために、より高度な輻輳制御アルゴリズムが使われます。
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DCQCN (Data Center Quantized Congestion Notification): ECNからの通知を利用し、輻輳ウィンドウの調整をより迅速かつ積極的に行うアルゴリズムです。
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iLossless(Huaweiなど): AIや予測技術を用いて、輻輳が発生する前にプロアクティブにトラフィックを調整し、PFCストームを回避しながら真のロスレスと高い利用率を両立させる技術です。
これらの技術によって、RoCEv2は標準的なイーサネットインフラストラクチャ上で、RDMAに必要な信頼性の高いロスレス環境を構築しています。
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