本稿では、スイッチング電源の伝導妨害をコモンモード(CM)とディファレンシャルモード(DM)に分離する理論を紹介するとともに、CM妨害・DM妨害の低減に対するフィルタ部品の効果を分析します。事例として、60Wフライバック電源の伝導エミッションのデバッグを行い、20dBのマージンを得た結果を紹介します。
キーワード:伝導妨害、コモンモード、ディファレンシャルモード分離、デバッグ
はじめに
スイッチング電源の妨害を、速く、効率よく、低コストでデバッグするにはどうすればよいか。これはエンジニアにとって常に難しい課題です。一般的なフィルタ部品の交換による対策は、時間がかかるうえに最適な効果が得られない場合があり、コストも増加します。
伝導電磁妨害の特性から、伝導妨害はCM妨害とDM妨害に分離できます。CM妨害は、任意の導体と基準グランドとの間に生じる意図しない電位差と定義されます。DM妨害は、電流が流れる任意の2本の導体間に生じる意図しない電位差と定義されます(図1参照)。

フィルタ部品がCM信号とDM信号に作用する原理はそれぞれ異なります。そのため、CMまたはDMの信号電圧に応じて、対応する部品を的確に調整することができます。これにより開発期間とコストを大幅に削減でき、市場機会の獲得につながります。
そこで知用(CYBERTEK)は、CM/DM分離技術を用いた高効率なデバッグソリューションを提供しています。本ソリューションは、デジタルレシーバ EM5080A、CM/DM分離機能付きLISN EM5040B、フィルタデバッグ治具 EM50401、絶縁トランス EM5060 で構成されます(図2、図3参照)。


EM50401は専用の配線端子を備えており、付属の標準部品だけでなく、任意の部品を接続して使用できます。
EM50401の付属部品
名称 | 仕様 | 数量 |
|---|---|---|
Yコンデンサ | 2200pF | 3 |
Yコンデンサ | 4700pF | 3 |
Xコンデンサ | 0.1µF | 3 |
Xコンデンサ | 0.22µF | 3 |
Xコンデンサ | 0.47µF | 3 |
Xコンデンサ | 1µF | 3 |
Xコンデンサ | 2µF | 3 |
コモンモードインダクタ | 1.2mH | 2 |
コモンモードインダクタ | 8mH | 2 |
コモンモードインダクタ | 30mH | 2 |
ディファレンシャルモードインダクタ | 30µH | 2 |
ディファレンシャルモードインダクタ | 70µH | 2 |
ディファレンシャルモードインダクタ | 100µH | 2 |
事例:60Wフライバック方式スイッチング電源の伝導エミッションのデバッグ
使用機器
名称 | ブランド | 型式 |
|---|---|---|
レシーバ | CYBERTEK | EM5080A |
LISN | CYBERTEK | EM5040B |
絶縁トランス | CYBERTEK | EM5060 |
デバッグ治具 | CYBERTEK | EM50401 |

まず、元のフィルタ部品をEM50401に移し替えて測定しました。



その1:Xコンデンサの検証
上記のCM/DM曲線から、この電源の主な問題はCM妨害であり、DM妨害はすでに十分低いことがわかります。そこで、次の操作を試みます。
元のフィルタ回路をもとに、CX2を0.47µFに増やして改善するかを確認します(図8、図9、図10参照)。



元のフィルタ回路をもとに、CX1を0.1µFに減らします(図11、図12、図13参照)。



結論: XコンデンサはDM妨害にのみ有効です。CM妨害が主体の場合、Xコンデンサを増やしてもCM妨害の低減には効果がありません。
その2:コモンモードインダクタの検証
元のフィルタ回路をもとに、コモンモードインダクタL1を1.2mHに減らします(図14、図15、図16参照)。



結論: コモンモードインダクタとYコンデンサで構成されるローパスフィルタ(図28)は、CM妨害を吸収する働きをします。また、コモンモードインダクタにはある程度の漏れインダクタンスがあるため、ディファレンシャルモードインダクタとしても働き、Xコンデンサとともにローパスフィルタを構成します。これにより、ディファレンシャルモードインダクタを単独で使用せずに済み、コストを削減できます。
その3:Yコンデンサの検証
元のフィルタ回路から、コンデンサCY1を取り外します(図17、図18、図19参照)。



結論: Yコンデンサは(コモンモードインダクタとともにローパスフィルタを構成し、図28参照)CM妨害を吸収する働きをします。ただし、Yコンデンサは容量を大きくすると漏れ電流が大きくなり、安全上の問題が生じます。医療用電源は漏れ電流に対する要求が厳しいため、通常はYコンデンサを使用しないか、ごく小容量のものしか使用しません。このことが伝導妨害のデバッグを大きく難しくしています。
その4:デバッグ完了後、20dBのマージンを達成
この電源の伝導妨害をさらに低減するため、2段フィルタを使用します。
通常、CMの抑制にはコモンモードインダクタとYコンデンサを追加します。フィルタ回路のDUT側に30mHのコモンモードインダクタを追加すると、低周波域は良好になるものの、高周波域は下がるどころか上昇します。CMスキャン曲線を以下に示します。


30mHのコモンモードインダクタを1.2mHのコモンモードインダクタに変更したときのCMスキャン曲線を以下に示します。


結論: コモンモードインダクタを大きくすると低周波域の伝導妨害の低減には有効ですが、巻数が多くなって分布容量が大きくなりすぎるため、高周波域ではあまり効果がありません。コストの面からも、大きなコモンモードインダクタは採用すべきではありません。
1.2mHのコモンモードインダクタ(DUT側寄り)にYコンデンサを追加したときのCMスキャン曲線を以下に示します。


Yコンデンサの位置をコモンモードインダクタのAC IN側に移し、LCローパスフィルタを構成します。理想的なCM曲線を以下に示します。


結論: コモンモードインダクタとYコンデンサは、妨害信号の伝わる方向に沿ってLCローパスフィルタのトポロジーを構成する必要があります。ディファレンシャルモードインダクタとXコンデンサについても同じ原則が当てはまります。

2つのコモンモードインダクタの位置を入れ替えると、低周波域が大きく上昇します。したがって、デバッグ時には小さいコモンモードインダクタをDUT側に近づけて配置します。


結論: 小さいコモンモードインダクタはDUT側に近づけて配置し、高周波域の妨害を優先して抑制します。
デバッグ前後の伝導エミッション試験曲線の比較
デバッグ前:


デバッグ後:伝導妨害は小さくなり、平均で20dBのマージンが得られました。


付録:EMIデバッグのヒント
周波数 | 現象 | 対策 |
|---|---|---|
9kHz〜1MHz | 主にDM | Xコンデンサ、ディファレンシャルモードインダクタ |
1MHz〜5MHz | CMとDMの混在 | Xコンデンサ、ディファレンシャルモードインダクタ、Yコンデンサ、コモンモードインダクタ |
5MHz〜30MHz | CM | Yコンデンサ、コモンモードインダクタ |
30MHz〜50MHz | MOSFETの高速スイッチングに起因 | ― |
50MHz〜200MHz | ダイオードの逆回復電流に起因 | ― |
200MHz〜1000MHz | スイッチング電源からの放射は比較的小さく、主に高速デジタル回路、クロック、RAM/CPUに起因 | ― |










