この記事ではEMC規格に関する基礎知識について解説しています。

 

EMCとは

EMCは Electromagnetic Compatibility を略した用語で、日本語では電磁環境両立性と訳されます。電磁環境両立性という用語は、電子機器が他の電子機器に電磁的な妨害を与えず、かつ自身が電磁ノイズを受けても誤動作しないことを要求するものです。

      

 

EMCは「電磁ノイズを出さないこと」と「電磁ノイズによって誤動作しないこと」の2つの要素を含んでおり、それぞれエミッション(EMI:Electromagnetic Interference)とイミュニティ(EMS:Electromagnetic Susceptibility)と呼ばれています。

エミッションとは

EMCにおけるエミッションは「電子機器が周囲に対して不要な電磁ノイズを放射すること」と解釈され、EMC規格の中では不要な電磁ノイズを限度値以下へ抑えることが求められます。エミッションノイズの種類は伝導ノイズと放射ノイズの2つに分かれます。

        

伝導ノイズは導体中を電気信号として流れていくノイズ、放射ノイズはアンテナによって電磁波として空間中を伝搬するノイズです。この2種類のノイズは周波数によって支配的な要素が異なるため、エミッション試験では周波数ごとにいずれか、あるいは両方の限度値が定められています。

イミュニティとは

EMCにおけるイミュニティは「周囲から印加される電磁ノイズに対する耐性」と解釈されます。イミュニティへの要求としては、自然ノイズも含む周囲環境から電磁ノイズに晒された時に誤動作しないことが求められます。またイミュティで対象とするノイズの種類は、エミッションと同様に伝導ノイズと放射ノイズの2つです。ただしイミュニティでは周囲環境によってノイズの強度や伝搬経路に違いが生じるため、様々なシーンを想定したイミュニティ試験が必要とされます。

 

EMC規格の全体像

各EMC規格の詳細は多岐にわたるためここでは取り扱わずに、EMC規格の全体像について紹介します。EMCではエミッションとイミュニティの2つの性能が要求されますが、様々な電子機器に対して共通の基準を適用できるように規格が体系化されています。このEMC規格の体系は、基本規格で試験方法や試験装置の仕様が規定されており、それに基づいて製品や製品群ごとに個別の要求仕様が適用される仕組みになっています。

        

 

基本規格とは

基本規格ではEMC試験の試験方法や試験装置の仕様などが定められており、「CISPR16シリーズ」や「IEC61000-4シリーズ」がこの基本規格に該当します。CISPR16シリーズでは、エミッションとイミュニティ双方の試験に関する事項が規定されています。このうちCISPR16-1では、試験装置の仕様や試験場の要求事項が規定されています。これらの規定は、適切にEMC試験を実施するために重要なものです。CISPR16-2では、伝導妨害(伝導エミッション)、放射妨害(放射エミッション)、妨害電力、及び各種イミュニティ試験の測定方法が規定されています。またIEC61000-4シリーズでは、イミュニティ試験の測定方法が規定されています。


共通規格とは

共通規格は製品群規格や製品規格に該当しない機器に適用される規格で、「IEC61000-6シリーズ」として使用環境ごとに限度値が規定されています。限度値は「住宅、商業および軽工業環境」と「工業環境」で分類されており、供試品(EUT:Equipment Under Test)の設置環境に応じて適用規格を選択します。


製品群規格とは

製品群規格は共通する特徴(回路、用途など)を持つ製品をひとまとめにして試験方法や限度値を定めたものです。代表的な例として、工業用、科学用及び医療用(ISM)機器は「CISPR11」、マルチメディア機器は「CISPR32」「CISPR35」、医療電気機器は「IEC60601-1」などが存在します。


製品規格とは

製品規格は特定の製品のみに適用される規格で、個別の試験方法や限度値が規定されています。

 

代表的なEMC規格

エミッション規格とイミュニティ規格はどちらも代表的な国際規格が存在し、各国の規制は国際規格に準ずる形で運用されています。ここでは、エミッションとイミュニティ、それぞれの代表的なEMC規格について紹介します。


IEC規格とCISPR規格

EMCに関連する国際規格は「IEC規格」と「CISPR規格」に分かれます。IECは、電気・電子に関連した国際的な標準化団体で、IECと冠する規格はEMC以外の分野でも多数存在します。CISPR(読み方:シスプル)は、IECの中で特別委員会として設立された団体で、電子機器の電磁ノイズに関する測定法や限度値など規定しています。CISPRでは製品分野ごとに小委員会(SC:Sub Committee)が構成されており、SCが担当規格の試験方法や限度値などを規定しています。

規格

内容

CISPR11

工業用、科学用および医療用機器(ISM機器)

CISPR12

車両、ボートおよび内燃機関

CISPR14-1

家庭用機器、電動工具および類似の器具

CISPR15

電気照明と類似機器

CISPR25

車載電子機器

CISPR32

マルチメディア機器



CISPR11

CISPR11は、工業用、科学用および医療用機器(ISM:Industrial, Scientific and Medical)を対象としたエミッション規格です。機器の性質に合わせて「グループ」と「クラス」の2つの観点からカテゴライズが行われます。グループは9 kHz~400 GHz の無線周波エネルギーを意図的に放射しているかどうかによって、グループ1(一般機器)とグループ2(意図的放射機器)に分類します。クラスは他のエミッション規格と同様にクラスA(商業および工業環境)とクラスB(家庭環境)に分類します。カテゴリーによって試験項目や限度値が異なるため、適切なグループ、クラスの把握が重要です。


CISPR32

CISPR32は、マルチメディア機器を対象としたエミッション規格です。マルチメディア機器は、情報技術装置(パソコン、スマホ、タブレット)、オーディオ機器、ビデオ機器、放送受信機などが組み合わさった装置のことです。試験項目に関しては「放射エミッション試験」と「伝導エミッション試験」があります。放射エミッション試験ではEUTの最高周波数が108MHz以上の場合に1GHz超の放射エミッション試験が必要になります。また伝導エミッション試験でLANなどの通信インターフェースを有する場合には通信ポート伝導エミッション試験が必要になります。


IEC61000-4シリーズ

IEC61000-4シリーズでは、イミュニティ試験方法を規定しています。多くの機器はこの規格をもとにして製品規格や製品群規格で規定された試験レベルを満足するように試験を実施します。代表的な試験項目は以下の表に示す項目で、静電気ノイズ、雷サージノイズ、バーストノイズ、電源ノイズ、無線ノイズに対する耐性が求められます。

規格

内容

IEC61000-4-2

静電気放電イミュニティ試験

IEC61000-4-3

放射無線周波数電磁界イミュニティ試験

IEC61000-4-4

電気的ファストトランジェント/バースト イミュニティ試験

IEC61000-4-5

サージイミュニティ試験

IEC61000-4-6

無線周波数電磁界によって誘導する伝導妨害に対するイミュニティ試験

IEC61000-4-8

電源周波数磁界イミュニティ試験

IEC61000-4-11

電圧ディップ、短時間停電および電圧変動に対するイミュニティ試験

 


© 2024 T&Mコーポレーション株式会社