この記事ではエンジャーさんよりSiglent製SSG5085AをもとにRF信号発生器の基礎知識について解説しています。
RF信号発生器とは
ワイヤレス通信、レーダー、EMC(電磁両立性)試験など、高周波回路やシステムの設計、評価、試験する上で必要不可欠な計測器がRF信号発生器です。このRF信号発生器は非常にノイズが小さくて、安定した高周波信号を生成することができます。
信号発生器の種類
一口に信号発生器と言っても、その目的や性能によっていくつかの種類に分類されます。代表的なものとして、ファンクションジェネレータ、アナログRF信号発生器、そしてベクトル信号発生器があります。
ファンクションジェネレータ
ファンクションジェネレータは数MHz~数十MHz程度といった比較的周波数が低い領域で使用される信号発生器です。サイン波だけでなく矩形や三角波など、様々な関数(Function)の波形を生成できることが特徴です。回路の基本的な動作確認などに使用されますが、位相ノイズ特性など信号の純度や安定性はRF信号発生器に比べて劣るのが一般的です。
アナログRF信号発生器
今回取り上げるSSG5085AはアナログRF信号発生器に該当します。アナログRF信号発生器は数十GHz以上の周波数に対応しており、その名の通りアナログ信号(CW:サイン波)を出力することに特化しています。最大の特徴は周波数安定性が非常に高く、位相ノイズが極めて小さいことです。そのため受信機の感度試験やEMC試験など、高純度な基準信号を必要とする用途で使用されています。またCWだけでなく、AM/FM/PMなどのアナログ変調機能を有していることがほとんどです。
ベクトル信号発生器
ベクトル信号発生器 (VSG)はデジタルRF信号発生器とも呼ばれ、現代のデジタル通信(スマートフォン、Wi-Fi、5Gなど)で使用される複雑なデジタル変調(QPSK, 16QAMなど)信号を生成できる計測器です。内部のデジタル信号処理(DSP)で変調データを作り、それをRF信号に変換して出力します。
信号発生器の使い分け
ファンクションジェネレータは「多機能・汎用」、アナログRF信号発生器は「高純度なサイン波(CW)特化」、ベクトル信号発生器は「デジタル変調特化」といった使い分けがなされています。
RF信号発生器のスペック
ここではSSG5058AをもとにしてRF信号発生器の主要なスペックについて紹介します。
SSG5000シリーズの概要
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図 SSG5000Aシリーズの外観
SSG5000Aシリーズはマイクロ波帯でも使用可能なモデルで、周波数範囲の違いによって2つの型式が存在します。
| 型番 | SSG5083A | SSG5085A |
|---|---|---|
| 周波数レンジ | 9kHz~13.6GHz | 9kHz~20GHz |
| 周波数分解能 | 0.001Hz | |
| IQ変調 | なし | |
| 位相雑音 | -120dB/Hz | |
| 最大出力電力 | 23dBm | |
図 SSG5000Aシリーズのスペック
またそれよりも周波数範囲が低いモデルとしてSSG5000Xシリーズも存在します。こちらのモデルは無線通信(携帯電話、WiFi、Bluetooth など)で使われる周波数帯域をカバーしつつ、価格も抑えられています。
| 型番 | SSG5040X | SSG5040X-V | SSG5060X | SSG5060X-V |
|---|---|---|---|---|
| 周波数レンジ | 9kHz~4GHz | 9kHz~6GHz | ||
| 周波数分解能 | 0.001Hz | 0.001Hz | ||
| IQ変調 | なし | あり | なし | あり |
| 位相雑音 | -120dB/Hz | |||
| 最大出力電力 | 26dBm | |||
図 SSG5000Xシリーズのスペック
また”‐V” オプション付きのモデルでは内部 I/Q モード(例:QAM, FSK, ASK, MSK 等)や ARB モード、マルチキャリア/マルチトーンといった機能が備わっており、無線通信デバイスの試験などにも使用可能です。
主要スペックの意味
RF信号発生器の性能の違いを理解するために、主要スペックの意味を理解しておくことが重要です。
周波数範囲
周波数範囲は信号発生器が出力可能な下限、上限周波数を表したものです。SSG5085Aは9kHzという低い周波数から、20GHzという非常に高い周波数(マイクロ波帯、衛星通信やレーダーで使用される)まで、極めて広い周波数範囲をカバーしています。
周波数分解能
周波数分解能は信号発生器が設定可能な周波数の細かさを表しています。0.001Hz、つまり1mHzという非常に細かいステップで周波数を設定できるため、極めて精密な周波数制御が可能となっています。
位相雑音(位相ノイズ)
位相ノイズは信号の純度を示す最も重要なスペックの一つです。理想的な単一の周波数の信号に対して、どれだけ余計なノイズ成分(位相ゆらぎ)が含まれているかを示す指標です。理想的な信号はスペクトラムアナライザで一本の線(スペクトル)に見えますが、実際にはその裾野にノイズが広がっています。このノイズが小さいほど信号がクリーンで、ジッタが少ないと言えます。
-120dBc/Hzという値は、キャリア周波数から 1 Hz の帯域幅あたりに観測されるノイズ電力が、キャリア電力より120 dB 小さいという意味です。位相ノイズと性能・用途のイメージは以下のとおりです。
| 位相ノイズ | 性能 | 用途 |
|---|---|---|
| -80 dBc/Hz | ややノイジー | 安価なRC発振器 |
| -100 dBc/Hz | 標準的 | 一般的なPLLシンセサイザ |
| -120 dBc/Hz | 良好 | RF信号発生器クラス |
| -150 dBc/Hz | 非常にクリーン | 高級基準発振器、OCXO、原子時計 |
図 位相ノイズと性能・用途の関係
SSG5000シリーズでは位相ノイズの大きさがオフセット周波数20 kHzで規定されています。このオフセット周波数はキャリア周波数からどれくらい離れているかを表しており、離れ具合によってノイズの原因や大きさが変化します。
| オフセット周波数 | 主な要因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1Hz~1kHz | フリッカノイズ、温度ドリフト | ノイズが非常に大きい |
| 1kHz~10kHz | PLLノイズ | 徐々に低下傾向 |
| 10kHz~100kHz | VCOノイズ | PLL帯域外で安定傾向 |
| 100kHz~数MHz | ホワイトノイズ | ノイズフロア(限界性能) |
図 オフセット周波数とのノイズの要因
レベル範囲(最大出力電力)
レベル範囲はRF信号発生器が出力可能な電力範囲を表したものです。1mWを基準としたdBmの単位で示されることが一般的です。SSG5000Aシリーズでは -130dBm ~ +23dBmの範囲に対応しています。-130dBmは1mWの10兆分の1という非常に微弱な信号ですが、一方で+23dBmは200mWに相当します。このような微弱な信号から、アンプ(増幅器)を駆動できるような比較的大きな電力までを出力できるということです。
RF信号発生器の用途と選び方
用途
RF信号発生器はクリーンで安定した信号源という特性から、多様な場面で使用されています。
高周波部品の評価
高周波回路で使用される様々な部品の特性評価するときの信号源として使用されます。例えばアンプの利得や歪み特性、フィルタ減衰特性、ミキサの変換効率など多岐にわたります。ネットワークアナライザと比較した利点は出力レベル範囲が広いことで、微小信号から第振幅まで多様な応答特性を測定できます。
受信機の評価
スマートフォン、Wi-Fi、GPS、ラジオ、衛星放送などの受信機が、どれだけ微弱な信号を正しく受信できるか、受信感度を評価するための試験に使用されます。また規格で定められた妨害波を入力し、受信性能がどれだけ悪化するかを評価する際にも不可欠です。
EMC試験(イミュニティ試験)
EMC試験では放射イミュニティ試験や伝導イミュニティ試験の信号源としてされます。これらの試験では、電子機器が外部からどれだけ強いノイズを受けても誤動作しないか、ノイズ耐性を評価するために実施されます。実際には信号発生器から出力したRF信号をパワーアンプで増幅し、アンテナや専用のプローブ(BCIプローブなど)を介して試験対象機器にノイズとして印加します。
基準信号源
他の計測器(例えばスペクトラムアナライザや周波数カウンタ)のキャリブレーションを行う際の、正確な周波数とレベルの基準信号源として使用されます。
選び方
上記の用途でRF信号発生器を使用するにあたって、どのような基準で選定すべきかを3つのポイントに絞って説明します。
周波数範囲
まず確認すべきは自分が必要とする周波数帯域をカバーしているかです。 受信機の評価においては、その帯域をカバーしていることはもちろん、規格試験で求められる帯域外のテストも考慮して、十分なマージンを持つ機種を選定しておくのが無難です。またEMC試験では規格で定められた周波数範囲(放射イミュニティ試験例: 80MHz~6GHz)をすべてカバーできる必要があります。
出力レベルと確度
次に重要なのは信号の強さと正確さです。 受信機の感度試験では -100dBm以下の非常に微弱な信号を正確に出力できる能力が求められます。SSG5085Aの「-130dBm」という最小レベルはこうした試験に十分対応できます。 逆にアンプの飽和特性を評価したり、EMC試験でハイパワーアンプを駆動したりする場合には、+10dBm以上の大きな出力が求められることがあります。また確度(レベル誤差)も重要です。これは設定した出力電力に対して、実際の出力がどれだけズレているかを示します。この誤差が小さいほど、より信頼性の高い試験が可能になります。
位相ノイズ
最後は信号の質に関わる最も重要なパラメータである位相ノイズで、特に要求の厳しい試験で重要になります。受信機の妨害波試験では信号のすぐ隣に妨害波が存在する状況を模擬する場合があります。このとき妨害波役の信号発生器の位相ノイズが大きいと、そのノイズが受信したい信号の周波数帯域にまで覆いかぶさってしまい、受信機の性能を正しく評価できなくなります。 またアンプやミキサなどの評価においても、信号源のノイズが大きければ、評価対象の部品が持つ本来のノイズ特性を正確に測定できません。SSG5085Aの-120dBc/Hzという値は、このような要求の厳しい試験にも対応できます。
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