
ACアダプタ電源等での「力率補償」、「EMC対策」は、電気回路や電子機器を設計・運用する上で密接に関連する重要なテーマです。それぞれについて、その関係性を交えて解説します。
電源
「電源」は、機器を動作させるために必要な電力を供給する装置です。一般的に、交流(AC)電源から直流(DC)に変換するACアダプターやスイッチング電源などが広く使われています。これらの電源回路の性能は、その機器の安定性や効率に大きく影響します。
力率補償(PFC: Power Factor Correction)
力率とは、交流回路において、有効電力(実際に仕事をする電力)が皮相電力(電圧と電流の積)に対してどれだけの割合を占めるかを示す指標です。力率は0から1の間の値を取り、1に近いほど効率が良いとされます。
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力率が低いとどうなるか?
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電力会社から送られてくる電流が無駄に大きくなり、送電ロスが増加します。
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電力設備に負担がかかり、変圧器や配線の容量を大きくする必要があります。
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機器内部で無駄な熱が発生し、効率が悪化します。
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力率補償は、この力率を改善するための技術です。特に、スイッチング電源のように高周波で動作する回路では、電流波形が歪み、力率が低下する傾向があります。力率補償回路(PFC回路)を搭載することで、電流波形を正弦波に近づけ、力率を改善します。
EMC対策(電磁両立性: Electromagnetic Compatibility)
EMCとは、機器が周囲の電磁環境に悪影響を与えず、かつ周囲の電磁環境から悪影響を受けずに正常に動作できる能力のことです。EMCは以下の2つの側面から考えられます。
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EMI(電磁干渉: Electromagnetic Interference): 機器から発生するノイズが、他の機器に影響を与えること。
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EMS(電磁感受性: Electromagnetic Susceptibility): 機器が外部からのノイズによって誤動作すること。
EMC対策は、これらの問題を解決するために、ノイズの原因を抑制したり、ノイズの侵入を防いだりする設計や技術を指します。
力率補償とEMC対策の関係
スイッチング電源において、力率補償とEMC対策は密接に関係しています。
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高調波電流規制
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国際規格であるIEC 61000-3-2では、家庭用電化製品や照明器具などから発生する高調波電流を規制しています。高調波電流は、電流波形が歪むことで発生し、力率を低下させる原因となります。
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力率補償回路(PFC回路)は、この高調波電流を抑制し、電流波形を正弦波に近づける役割を果たすため、高調波電流規制への対応に不可欠です。
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ノイズ対策
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PFC回路は、高周波で動作するスイッチング回路であるため、それ自体がノイズ(EMI)の原因となる可能性があります。
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したがって、PFC回路を設計する際には、ノイズフィルタの追加や適切な配線設計など、EMC対策を同時に考慮する必要があります。
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まとめ
電源を設計する際には、単に電力を供給するだけでなく、力率を改善して効率を高め、かつEMC規制に準拠するための対策を施すことが重要です。力率補償は、電源の効率化とEMC対策(特に高調波電流対策)の両面から不可欠な技術であり、これらの要素をバランスよく考慮した設計が求められます。