
ENOB (Effective Number of Bits)は、オシロスコープのADC(アナログ・デジタル変換器)の実質的な分解能を示す指標です。
ENOBとは
ENOBは、ADCの公称ビット数(カタログスペック上の分解能)とは異なり、ADCが持つノイズ、歪み、非直線性などの不完全な要素をすべて考慮した上で、実際に有効に機能するビット数を表します。
ADCは理想的なものではなく、ノイズや歪みといった誤差要因を含んでいるため、公称のビット数通りの性能を常に発揮できるわけではありません。この誤差を理想的なADCの量子化ノイズと等価なビット数に換算したものがENOBです。
たとえば、8ビットのADCでもENOBが6ビットしかなければ、そのADCの実際の性能は6ビットの理想的なADCと同等であることを意味します。
測定方法と計算式
ENOBは、主にADCの性能を示すSINAD (Signal to Noise and Distortion Ratio)という指標から計算されます。
SINADは信号成分の電力と、ノイズおよび歪み成分の電力の比率で、dB(デシベル)で表されます。
SINADは、オシロスコープに既知の高品質な正弦波を入力し、その出力信号をスペクトル解析することで測定できます。
ENOBを計算するための一般的な式は以下の通りです。
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SINAD: 信号対ノイズ・歪み比 (dB)
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1.76: 理想的なADCの量子化ノイズを考慮した定数
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6.02: ビットをデシベルに変換するための係数
この式は、測定されたSINADが、ENOBビットの理想的なADCが持つ理論上のSINADと等しいと仮定して導出されます。
オシロスコープにおけるENOBの重要性
オシロスコープにおいてENOBは、波形の忠実度や微小な信号の測定能力を評価する上で重要な指標です。公称ビット数が高いからといって、必ずしも優れた測定ができるわけではありません。
特に、高周波数の信号を扱う場合、ADC内部の非線形性が悪化し、ENOBが低下する傾向があります。そのため、オシロスコープの仕様表には、入力周波数に対するENOBのグラフが掲載されていることがよくあります。
高分解能の測定や、ノイズに埋もれた微小な信号を正確に捉えたい場合には、より高いENOBを持つオシロスコープを選択する必要があります。