SIGLENT (シグレント)SDS1000X HDシリーズ デジタル・オシロスコープ

デカップリングコンデンサは、EMC(電磁両立性)対策において非常に重要な役割を果たします。EMC対策とは、電子機器から発生する不要な電磁ノイズを抑制し、他の機器に悪影響を与えないようにすること(エミッション)と、外部からの電磁ノイズを受けても誤動作しないようにすること(イミュニティ)の両方を満たすための対策です。

 

デカップリングコンデンサの役割

 

デカップリングコンデンサは、主に以下の2つの目的で使われます。

  1. ICなどの動作に必要な電荷の供給

    ICなどのデジタル回路は、スイッチング動作により瞬間的に大きな電流を消費します。電源からICまでの配線にはインピーダンス(抵抗やインダクタンス)が存在するため、この急激な電流変化によって電源電圧が変動してしまいます。この電圧変動は、ICの誤動作の原因となるだけでなく、ノイズとして周囲に放射される原因にもなります。

    デカップリングコンデンサは、ICの電源ピンの近くに配置することで、ICが電流を要求した際に、その電荷をすぐに供給する役割を担います。これにより、電源電圧の変動を抑制し、ICの安定動作を確保します。

  2. ノイズのバイパス

    デカップリングコンデンサは、電源ラインに重畳した高周波ノイズをグランドにバイパスする役割も果たします。コンデンサは、直流は通さず交流は通す性質を持っています。そのため、電源ラインに入り込んだノイズ(高周波の交流成分)をコンデンサがグランドに流すことで、ノイズがICに供給されるのを防ぎます。これにより、ノイズの発生源を局所化し、ノイズの放射を抑制する効果があります。

 

EMC対策における配置のポイント

 

デカップリングコンデンサの効果を最大限に引き出すためには、配置が非常に重要です。

  • ICの電源ピンのできるだけ近くに配置する

    配線にはインダクタンス成分が含まれており、これが高周波ノイズの原因となります。デカップリングコンデンサは、ICの電源ピンとグランドピンを最短距離で結ぶように配置することで、配線によるインダクタンスを最小限に抑えることができます。これにより、コンデンサがより効果的にノイズをバイパスし、電圧変動を抑制します。

  • 複数のコンデンサを使い分ける

    デカップリングコンデンサは、容量とESR(等価直列抵抗)、ESL(等価直列インダクタンス)などの特性によって、効果的な周波数帯域が異なります。一般的に、高周波ノイズには小さな容量のコンデンサ(0.1μFや0.01μFなど)、比較的低い周波数の変動には大きな容量のコンデンサ(10μFなど)が使われます。これらを組み合わせて、広範囲のノイズに対応することが推奨されます。

  • GNDビアの配置

    デカップリングコンデンサとICのGNDピンを同じ層で接続し、その近くにGNDビア(スルーホール)を配置することで、電源ループを小さくし、ノイズを抑制することができます。

 

まとめ

 

デカップリングコンデンサは、EMC対策において、ICの安定動作の確保とノイズの抑制という二重の役割を担っています。その効果は、配置によって大きく左右されるため、ICの電源ピンに極力近く、配線を短くするよう設計することが重要です。