パワーデバイスのウェハプロセスは、スマートフォンやPCに使われる論理チップ(ロジックIC)やメモリチップのプロセスとは、目的とする機能と扱うエネルギーが根本的に異なるため、いくつかの点で大きく異なります。
主な違いを以下の表にまとめました。
| 特徴 | パワーデバイス(例: SiC MOSFET、IGBT) | 論理チップ(例: CPU、GPU、DRAM) |
| 主な機能 | 高電圧・大電流の制御(スイッチング、電力変換) | 演算・記憶(データ処理、信号処理) |
| 主要材料 | Siに加え、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体が増加 | ほぼSi(シリコン) |
| プロセス注力点 | 高耐圧化、低抵抗化、放熱性 | 微細化、高集積化、高速化 |
| 素子構造 | **垂直型(Vertical Structure)**が多い | **プレーナ型(Planar Structure)**が多い |
| ウェハの厚み | 厚い(高耐圧層を確保するため) | 薄い(熱抵抗低減のため、最終的に薄く加工) |
| 裏面処理 | 重要(大電流の経路、放熱のための金属形成) | 表面の回路形成が主 |
1. 扱う材料と構造の違い
⚡ 高耐圧・ワイドバンドギャップ材料
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パワーデバイス:高電圧に耐え、スイッチング時の電力損失を減らすため、従来のSiに加え、SiCやGaNが主役になりつつあります。
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SiCやGaNはSiよりも加工が非常に難しく、結晶欠陥の低減や高品質なエピタキシャル成長(結晶層をきれいに積む技術)がプロセスの大きな課題となります。
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論理チップ:主にSiが使われ、プロセス技術は微細な回路を形成する方向(微細化)に特化しています。
📏 垂直構造と厚いウェハ
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パワーデバイス:大電流を流すため、ウェハの表面から裏面にかけて電流を流す垂直構造 が主流です。高耐圧を確保するためのドリフト層と呼ばれる層が必要なため、ウェハ自体の厚み(数百μm 単位)を比較的厚く保つ必要があります。
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論理チップ:電流はウェハの表面に沿って流れるプレーナ構造が主で、ウェハの厚みはデバイス特性に直接関係しません(最終的には放熱のために極限まで薄くされます)。
2. プロセス技術の注力点の違い
🌡️ 大電流経路と放熱性
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パワーデバイス:大電流を流すと発熱が大きくなるため、低オン抵抗化と放熱性の確保が最重要です。
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裏面プロセス: ウェハの裏面(ボトム側)に、大電流を取り出すための電極(金属)を厚く形成するプロセスが非常に重要になります。
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高温アニール: SiCやGaNでは、オーミックコンタクト(電気的に抵抗の低い接続)を得るために**非常に高温での熱処理**(アニール)が必要となり、Siプロセスとは異なる独自の技術が必要です。
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💻 微細化と集積度
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論理チップ:ムーアの法則に従い、トランジスタの数を増やすための微細化(ナノメートルスケール)、すなわちリソグラフィ技術の極限の精度が最も重要です。
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配線層: デバイス表面に多数の金属配線層を積み重ね、複雑な論理回路を実現します。
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要約すると、論理チップは「小さく、速く、複雑に」を目指し、パワーデバイスは「大きく、強く、損失なく」電力を制御することを目指しているため、プロセス技術の重点が根本的に異なっています。





