反応性イオンエッチング(DRIE:Deep Reactive Ion Etching)は、垂直な側壁を持つ高アスペクト比(深さ/幅の比率が大きい)の微細構造を、シリコンなどの基板に形成するために使用されるドライエッチングの一種です。
これは、主に**MEMS(微小電気機械システム)や高度な半導体パッケージング(TSVなど)**の製造において、極めて重要な基盤技術となっています。
1. DRIEの原理と特徴
DRIEは、単なるRIE(Reactive Ion Etching)とは異なり、深い穴や溝を高精度に、かつ高速で加工するために最適化されたプロセスです。
1.1. 異方性エッチングの実現
DRIEの最大の特徴は、エッチング(削る作用)とパッシベーション(保護膜を形成する作用)を交互に繰り返すことで、深さ方向(垂直方向)にのみエッチングを進めることができる点です。これにより、マスク(型)のパターンを忠実に、基板の奥深くまで転写できます。
1.2. 主要なプロセス:「ボッシュプロセス」
現在、DRIEの製造技術として最も広く認識され、使用されているのが**ボッシュプロセス (Bosch process)**です。このプロセスは、以下の2つのステップを交互に高速で繰り返します。
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パッシベーション(保護)ステップ: C4F8などのフルオロカーボンガスを用いて、エッチングされる側壁にポリマーの保護膜を薄く堆積させます。(C4F8:オクタフルオロシクロブタン(パーフルオロシクロブタン)というガスです。主に半導体製造分野で、絶縁膜エッチング剤や装置の洗浄剤として使用)
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エッチングステップ:SF6などのフッ素系プラズマを用いて、ウェハに垂直に加速されたイオンが底部に衝突し、保護膜を破壊して下のシリコンをエッチングします。側壁は保護膜によって守られるため、横方向へのエッチング(等方性エッチング)が抑制されます。
この繰り返しにより、側壁がわずかに波打った構造(スカロップ)を伴いながらも、全体として非常に垂直な深掘りを実現します。
1.3. その他のプロセス:「クライオ(極低温)エッチング」
ボッシュプロセスに加えて、ウェハを極低温(約-110℃)に冷却することで、側壁での化学反応(等方性エッチング)を抑制し、垂直なエッチングを実現するクライオプロセスもあります。これは、ボッシュプロセスよりも滑らかな側壁が必要な場合に用いられます。
2. DRIEの応用分野
DRIE技術は、その高いアスペクト比と垂直性の特徴から、多岐にわたる先端技術で不可欠な役割を果たしています。
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MEMS(微小電気機械システム):
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加速度センサー、ジャイロスコープ: 可動部と検出部を構成する梁や櫛型電極などの微細で深い機械構造の形成。
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マイクロ流体デバイス: 微細な流路やバルブの形成。
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マイクロニードル: 非常に細く尖った針状構造の形成。
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半導体パッケージング:
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TSV(Through Silicon Via、シリコン貫通電極): ウェハを垂直に貫通する深い穴(ビア)の形成。チップの積層や小型化に不可欠です。
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光エレクトロニクス:
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光導波路や反射鏡など、精密な光学構造の形成。
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フレキシブルエレクトロニクス:
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シリコン基板を数〜数十マイクロメートルまで薄くし、柔軟性を持たせるための裏面エッチング。
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DRIEは、MEMSデバイスの製造技術の基本かつ重要なものです。
この動画では、主にシリコンの深掘りRIE(Deep-RIE)技術であるボッシュプロセスの仕組みや応用例が解説されています。
「Si深堀エッチング(Deep-RIE)技術とその応用」







