PMSM(永久磁石同期モータ)のトルクリプル抑制制御に複素オールパスフィルタを用いる手法は、近年研究されている有効なアプローチの一つです。
🤖 複素オールパスフィルタによるトルクリプル抑制制御の概要
この制御手法の主なポイントは以下の通りです。
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問題点:制御帯域幅の限界
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従来のトルクリプル抑制制御(高調波電流注入など)では、モータの回転数が上昇すると、抑制対象のトルクリプル成分の周波数も高くなります。
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この高周波成分に対し、電流制御系(通常はPI制御器などを含む)の**応答の遅れ(位相遅れ)**が大きくなり、十分な抑制性能が得られなくなるという問題があります。
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複素オールパスフィルタの役割:位相補償
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オールパスフィルタは、信号のゲイン(振幅)を変えずに、位相特性のみを調整できるフィルタです。
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特に複素係数を持つオールパスフィルタを用いることで、特定の周波数(トルクリプル周波数)において、電流制御系の位相遅れを正確に**補償(進める)**することができます 。
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これにより、高周波数のトルクリプル成分に対しても、実質的な制御帯域幅を拡大したかのように、適切な補償電流を注入することが可能になり、中高速域でのトルクリプル抑制性能を維持・向上させることができます。
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制御系への適用
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一般的には、$q$軸電流指令値にトルクリプルを打ち消すための補償電流(高調波成分)を重畳しますが、この補償電流信号の経路に複素オールパスフィルタを組み込み、電流制御系の位相遅れを補償します。
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⚙️ メリット
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中高速域での性能向上: 従来の制御では抑制が難しかった中高速域でのトルクリプルを効果的に低減できます。
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シンプルな構造: フィルタとして組み込むため、制御器自体の抜本的な変更(例:繰り返し制御など)よりもシンプルに実装できる場合があります。
📚 研究動向
この手法は、特に日本の研究機関(例:東京理科大学など)において、「複素係数を持つオールパスフィルタによるPMSMのトルクリプル抑制制御適用速度範囲の拡大」といったタイトルで活発に研究・発表されています。





