
電気自動車(EV/PHEV)のオンボード充電システムにおけるEMC(電磁両立性)は、車両の安全性、信頼性、および性能を確保するために非常に重要です。
EMCの基本概念
EMCとは、電子機器やシステムが、意図しない電磁妨害を引き起こしたり、他の機器からの妨害によって性能が低下したりすることなく、互いに共存できる能力を指します。
EMCは以下の2つの側面で構成されます。
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EMI (Electromagnetic Interference): 電磁妨害。機器が発する不要な電磁エネルギーが、他の機器に悪影響を及ぼす現象です。オンボード充電システムの場合、高周波スイッチングによって発生するノイズがこれにあたります。
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EMS (Electromagnetic Susceptibility): 電磁感受性。機器が外部からの電磁妨害に対して、どの程度耐えられるかを示す能力です。外部のノイズ(例:携帯電話の電波、ラジオ波)によって、充電システムの動作が不安定になる可能性があります。
オンボード充電システムにおけるEMC課題
オンボード充電システム(OBC)は、交流(AC)を直流(DC)に変換してバッテリーを充電する役割を担っています。この変換プロセスは、高周波のスイッチングによって行われるため、強力な電磁ノイズ源となります。
主なEMC課題は以下の通りです。
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伝導ノイズ: AC電源ラインやDC出力ラインを通じて伝わるノイズです。特に、AC入力側では高調波電流や高周波ノイズが問題となり、家庭用電力網や他の電気機器に悪影響を及ぼす可能性があります。
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放射ノイズ: 充電システムから空間に放射される電磁波です。車両内の他の電子機器(例:ナビゲーションシステム、ラジオ、センサー)の誤動作を引き起こしたり、外部の無線通信に干渉したりする可能性があります。
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サージ・ESD: 落雷や静電気放電(ESD)など、外部からの大きな電磁エネルギーによって、充電システムが損傷したり、誤動作したりする可能性があります。
EMC対策
これらの課題に対処するため、以下のようなEMC対策が講じられます。
1. ノイズフィルタ
充電システムの入力側と出力側に、EMIフィルタを設置して、伝導ノイズを除去します。
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コモンモードチョークコイル: 電源ラインのペアに共通して流れるノイズ電流を抑制します。
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コンデンサ: ノイズ成分を吸収し、グラウンドに逃がす役割をします。
2. シールドとグラウンディング
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シールド: 充電システムの筐体を導電性の高い材料で覆い、内部のノイズが外部に放射されるのを防ぎます。また、外部からのノイズが内部に侵入するのを防ぐ役割もします。
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グラウンディング(接地): ノイズ電流を安全な経路で逃がすため、システムの各部を適切に接地します。低インピーダンスのグラウンド接続が重要です。
3. PCBレイアウトと部品配置
プリント基板(PCB)の設計段階でEMCを考慮することが不可欠です。
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高周波回路の最短化: スイッチング回路などの高周波部分を短くし、ループ面積を最小化することで、アンテナ効果による放射ノイズを低減します。
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部品の適切な配置: ノイズを発生しやすい部品と、ノイズに弱い部品を離して配置します。
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多層基板の利用: グラウンドプレーンを設けることで、シールド効果を高め、ノイズの伝搬を抑制します。
これらの対策は、自動車メーカーやサプライヤーが遵守すべき国際的なEMC規格(例:CISPR 25、ISO 7637-2)に基づいて実施されます。適切なEMC設計とテストによって、EVの充電システムは、他のシステムと円滑に連携し、安全で信頼性の高い動作を維持できます。🚗
詳細情報: 株式会社 e・オータマ https://www.e-ohtama.jp
電気自動車のオンボード充電システムのEMC — IEC 61851-21-1 の概要
https://www.emc-ohtama.jp/emc/doc/iec61851-21-1-explained.pdf
T&MコーポレーションではNEXTEM社と協調してSIGLENT社、Ceyear社の電子計測器(スペアナ, SG, VNA等)による EMC評価に必要な電子測定器、システムの提案を行っております。お気軽にお問い合わせフォームよりご相談くださいませ。
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