インピーダンス・アナライザ  TECHMIZE 型式:TH2851-130【10Hz-130MHz】

デカップリング、電源インピーダンス、EMC対策は、電子回路の安定した動作とノイズ対策において密接に関連する重要な概念です。

 

1. デカップリングとは

 

デカップリング(Decoupling)とは、「結合を分離する」という意味で、電子回路においては、主に電源ラインを通して回路間で信号やノイズが干渉し合うのを防ぐための手法です。

  • 役割: デジタル回路やアナログ回路は、スイッチング動作や急激な電流変化によって電源電圧に変動(ノイズ)を発生させます。このノイズが電源ラインを伝って他の回路に影響を与え、誤動作や性能低下を引き起こす可能性があります。デカップリングは、この電源ラインのノイズを吸収し、回路間の干渉を防ぐことを目的とします。

  • デカップリングコンデンサ: この目的のために使われるのが「デカップリングコンデンサ」です。

    • 電源の安定化: IC(集積回路)が急激な電流を消費した際に、遠くにある電源から電流が供給されるまでの間に電圧が一時的に降下するのを防ぐために、ICのすぐ近くにコンデンサを配置します。コンデンサは「一時的な電気の貯蔵庫」として機能し、必要な電流を瞬時に供給することで電圧変動を抑えます。

    • ノイズの除去: コンデンサは周波数が高くなるほどインピーダンスが低くなる性質を持っています。電源ラインに重畳した高周波ノイズを、コンデンサを介してグランド(GND)にバイパス(流し込む)ことで除去します。

  • 配置: デカップリングコンデンサは、その効果を最大限に発揮させるために、ノイズを発生させるICや部品の電源ピンのできるだけ近くに配置することが重要です。配線が長くなると、その配線が持つインダクタンス成分によってコンデンサのノイズ除去効果が低下してしまうからです。

 

2. 電源インピーダンスとEMC対策

 

  • 電源インピーダンス: 電源ラインには、直流抵抗成分だけでなく、配線のインダクタンスや浮遊容量といった交流成分(リアクタンス)が含まれており、これらを総称して電源インピーダンスと呼びます。理想的な電源はインピーダンスがゼロですが、現実には必ずインピーダンスが存在します。

  • EMCとの関係:

    • EMC(ElectroMagnetic Compatibility) とは、電子機器が電磁妨害(EMI: ElectroMagnetic Interference)を発生させず、かつ電磁妨害に対して耐性(EMS: ElectroMagnetic Susceptibility)を持つ能力のことです。

    • 電源インピーダンスが高いと、回路が生成したノイズ電流が電源ラインを流れ、そのインピーダンスと相互作用してノイズ電圧として現れます。このノイズ電圧は、他の回路に悪影響を及ぼしたり、アンテナとなって空間に放射されたり(放射ノイズ)する原因となります。

  • 電源インピーダンスを低く抑える: EMC対策において、電源インピーダンスをできるだけ低く抑えることが非常に重要です。

    • デカップリング: デカップリングコンデンサを適切に配置することで、電源インピーダンスを効果的に下げることができます。特に高周波領域のインピーダンスを低減することで、ノイズが電源ラインを伝播するのを防ぎ、回路全体のノイズ耐性を向上させます。

    • グラウンド(GND)の強化: グラウンドプレーンやベタ配線を使用することで、グランドのインピーダンスを低く保ち、ノイズの伝播経路を短く、かつ低インピーダンスにすることができます。

    • 電源層とGND層の配置: プリント基板において、電源層とGND層を近接して配置することで、層間に容量を持たせることができ、これもインピーダンスを下げる効果があります。

 

まとめ

 

  • デカップリング: 主にICなどの負荷の近くにコンデンサを配置し、急激な電流変化による電圧変動を抑え、高周波ノイズをグランドにバイパスする手法。

  • 電源インピーダンス: 電源ラインが持つ、交流的なインピーダンス成分。これが高いとノイズが発生しやすくなる。

  • EMC対策: デカップリングコンデンサの適切な配置や、グラウンドの強化などにより、電源インピーダンスを低く抑えることが、回路がノイズを発生させない(EMI)と、ノイズに強い(EMS)というEMC性能を向上させるための基本かつ重要な対策となります。