高アスペクト比エッチングにおけるチャージング(帯電)は、微細構造の底面や側壁に電子とイオンが不均一に蓄積することで生じる深刻な課題です。これは、特に深く狭いホール(孔)やトレンチを加工する際に、エッチング形状の異常や均一性の低下を引き起こします。
1. チャージングの発生メカニズム ⚡
プラズマ中では、ウェハ表面に垂直に加速されて入射するイオン(正電荷)と、熱運動でウェハ全体にランダムに到達する電子(負電荷)が存在します。
A. 表面電位の不均一性
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電子の挙動(ホール上部への蓄積): 電子はイオンよりも質量が遥かに軽いため、熱運動速度が速く、ウェハ表面全体に一様に到達しようとします。しかし、高アスペクト比のホール内部には、ホール開口部周辺の電界や幾何学的な制約により電子が入り込みにくくなります。
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イオンの挙動(ホール底面への集中): イオンはシース電界によって加速され、垂直に入射します。そのため、ホールの底面に集中して衝突し、底面を正に帯電させます。
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側壁の帯電: 誘電体膜の側壁は、電子が届きにくく、イオンが衝突して反射した電子(二次電子)が放出されることで、正に帯電する傾向があります。
B. 異常なエッチング形状
この不均一な帯電によって、ホール内部に局所的な電界が発生し、イオンの軌道が歪められます。
| 異常現象 | メカニズム |
| ボウイング (Bowing) | 側壁が正に帯電することでイオンが反発され、ホールの中央に向かって軌道が曲げられ、側壁の中央が膨らんだ形状になる。 |
| トレンチング (Trenching) | ホールの角(底面の端)でイオンが集中してエッチングされ、底面が均一ではなく、周縁部だけ深く削られる現象。 |
| エッチング停止 (Etch Stop) | 特に微細なホールで、底面が過度に帯電することでイオンが完全に反発され、エッチングが途中で停止してしまう。 |
2. チャージング対策としての技術的アプローチ
チャージング問題を解決し、高アスペクト比のエッチング精度を維持するために、主に以下の技術が採用されています。
① パルスプラズマ技術 (Pulse Plasma)
RF電力を連続的に印加するのではなく、オン/オフを繰り返すパルス状で印加します。
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原理: 電力オフの間に、電子がホール内部まで拡散する時間を与え、蓄積された正電荷を中和します。これにより、局所的な電位差が緩和され、イオン軌道の歪みが抑制されます。
② デュアル周波数プラズマ (Dual Frequency Plasma)
異なる周波数(通常は低周波と高周波)のRF電源を同時に印加します。
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高周波(HF): プラズマ生成(高密度化)を主に担います。
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低周波(LF): ウェハへのバイアス電圧(イオンの加速エネルギー)制御を主に担います。
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メリット: プラズマ生成とイオンエネルギー制御を独立させることで、エッチングの異方性やプロファイルをより柔軟に制御し、チャージングを抑制できる条件を探ることが可能になります。
③ 中和手法の利用
プラズマ中に負イオンを導入するか、ウェハ表面に**中性粒子(ラジカル)**の寄与を高めることで、帯電を抑制するアプローチです。
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負イオン: 特定のガスを用いることで、プラズマ中に負イオンを生成し、ホールの底面に到達させることで、正電荷を中和します。
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低イオンエネルギー: イオンのエネルギーを必要以上に上げすぎず、ラジカルによる化学的なエッチングの寄与を高めることで、物理的なイオン衝突による帯電効果を緩和します。




