高スイッチング周波数での整流器(レクティファイア)用アクティブクランプ回路の設計は、主にスイッチング損失の低減とスイッチの電圧ストレスの抑制を目的とします。
ここでは、特に高周波数動作における整流器の力率改善回路 (PFC) やDC-DCコンバータの出力整流段を念頭に、アクティブクランプ回路の設計のポイントと主な構成要素を解説します。
💡 アクティブクランプ回路の設計の要点
高スイッチング周波数(数百kHz〜数MHz)で動作させる場合、設計で最も重要となるのは、スイッチング素子のゼロ電圧スイッチング (ZVS:Zero Voltage Switching) やゼロ電流スイッチング (ZCS:Zero Current Switching) を実現し、効率を最大化することです。
1. 共振動作の最適化とZVSの確保
アクティブクランプ回路は、補助スイッチとインダクタンス・キャパシタンスを用いて共振を起こし、メインスイッチがターンオン/ターンオフする際に、電圧・電流をゼロ付近にする(ソフトスイッチング)ために利用されます。
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共振周波数の設計: 共振タンク(例:クランプ容量Cclamp と共振インダクタンス Lres)を構成する値は、動作周波数fs や負荷条件に応じて最適化する必要があります。
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Lresは、メインスイッチの出力容量 Coss やトランスの漏れインダクタンス Lleak などと共振し、スイッチのドレイン-ソース間電圧 Vds をゼロにするために使われます。
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デッドタイムの調整: メインスイッチとアクティブクランプスイッチの間に適切なデッドタイム(不感時間) を設けて、短絡(シュートスルー)を防ぎつつ、ZVSを実現するための時間(Vds をゼロまで下げる時間)を確保することが極めて重要です。
2. クランプ電圧の制御
アクティブクランプ回路の主要な役割の一つは、トランスの漏れインダクタンスなどに蓄えられたエネルギーを回収し、スイッチにかかる過電圧(電圧ストレス)を抑制することです。
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クランプ電圧の決定: クランプコンデンサ Cclamp にチャージされる電圧 Vclamp は、設計上の最大スイッチング電圧を決定します。この Vclamp が高すぎるとスイッチの定格を超え、低すぎるとエネルギー回生が不十分になります。
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安定化: Vclamp は、負荷や入力電圧の変動に関わらず、一定に保たれるようにフィードバック制御(例:補助スイッチのデューティ比制御)を行う必要があります。
3. 部品選定と寄生要素の考慮
高周波数動作では、部品の寄生要素が性能に大きく影響します。
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スイッチング素子: 高速スイッチングが可能なGaN (窒化ガリウム) やSiC (炭化ケイ素) などのワイドバンドギャップ半導体 (WBG) デバイスの採用が不可欠です。これらのデバイスは、 Coss が小さく、スイッチング速度が非常に速いため、高周波数化に貢献します。
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配線とレイアウト: 配線インダクタンスや寄生容量を最小限に抑えるため、PCBレイアウトは非常に重要です。特に、スイッチングノードのループ面積を極力小さくし、高周波ノイズの発生を防ぐ必要があります。
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コンデンサ:Cclamp や他の共振コンデンサには、低ESR (等価直列抵抗)、低ESL (等価直列インダクタンス) のセラミックコンデンサなどを使用します。
🔧 一般的なアクティブクランプトポロジー
整流器用途でよく用いられるトポロジーと、アクティブクランプの役割の例です。
| トポロジー | アクティブクランプの役割 |
| アクティブクランプフォワードコンバータ | メインスイッチのZVSを実現し、トランスの残留磁束(リセット) と漏れインダクタンスのエネルギーをクランプコンデンサに回生します。 |
| アクティブクランプフライバックコンバータ | メインスイッチのZVSを実現し、特に漏れインダクタンスのサージ電圧を抑制・回生します。 |
高周波数設計においては、シミュレーション(例:LTspice、PSIM)を用いて、寄生要素を含めた厳密な設計と検証を行うことが成功の鍵となります。



