📉 MMFのモード分散と1060nm波長
マルチモードファイバー (MMF) のモード分散は、信号の伝送速度と距離を制限する主要な要因です。1060nmの波長は、このモード分散の影響を最小限に抑えることを目的とした次世代のMMF通信で注目されています。
1. モード分散の原理
モード分散(Modal Dispersion)は、MMFのコア内を伝搬する光が、異なる経路(モード)を通ることで、受信側で信号が到達する時間にズレが生じる現象です。
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光のモード: MMFはコア径が太いため、複数の光の通り道(モード)を同時に伝搬させます。
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経路の長さ: コアの中心に近いモード(低次モード)は比較的短い経路を通りますが、コアの端に近いモード(高次モード)は反射を繰り返すため、長い経路を通ります。
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信号の広がり: その結果、送信時にはシャープだったパルス信号が、受信時には時間的に広がり(パルス幅の拡大)、隣接するパルスと重なり合ってしまいます。
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速度の制限: この信号の広がりが、データ伝送速度(ビットレート)の上限を決定します。
2. 勾配屈折率ファイバー(GI-MMF)による対策
現代の高速通信で使われるMMF(OM3、OM4、OM5など)は、このモード分散を低減するために、コアの中心から外側に向かって屈折率が段階的になめらかに低下するように設計されています(勾配屈折率型、GI-MMF)。
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効果: 屈折率が低い外側を通る光(長い経路)ほど速く進み、屈折率が高い中心を通る光(短い経路)ほど遅く進むことで、すべてのモードの伝搬時間がほぼ一致するように補正されます。
3. 1060nmと広帯域MMFの最適化
勾配屈折率の設計は、特定の波長(例えば850nm)で伝送時間を最適化するように調整されていますが、完全にゼロにはなりません。
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広帯域MMF (WB-MMF / OM5):
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OM5ファイバーは、従来の850nmだけでなく、880nmから950nmの波長帯域でもモード分散特性を最適化し、複数の波長を使って伝送するSWDM (Short Wavelength Division Multiplexing) 技術に対応するために開発されました。
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1060nmへの応用:
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1060nmは、さらに長い波長であり、850nmや940nmVCSELの限界を超える次世代の200G/レーン以上の高速伝送を目指す際に注目されます。
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広帯域MMFの設計を1060nm波長帯に最適化することで、この波長でのモード分散を極限まで小さくし、超高速信号の伝送距離を伸ばすことが可能になります。
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1060nmのメリットまとめ:
| 項目 | 1060nm帯を使用するメリット |
| モード分散 | MMF設計の最適化によりモード分散を最小化し、高速信号の伝送距離を向上させる。 |
| 信号減衰 | 850nm帯に比べ、光ファイバーの固有の減衰(レイリー散乱など)が少なくなり、伝送損失が低減する。 |
| 光源 | 1060nmで動作する新しいVCSELやその他の光源は、従来の850nm VCSELよりも電気-光変換効率が高い可能性がある。 |
この技術は、特にデータセンターにおける1.6T以上の超大容量短距離リンクを実現するための重要な手段として研究開発が進められています。
