
A級〜B級増幅回路 (クラスAB増幅回路)
トランジスタを用いた増幅回路は、その動作方式によってA級、B級、そして両者の中間であるAB級に大別されます。
1. A級増幅回路 (Class A)
-
動作: 入力信号の全周期にわたって、常にトランジスタが導通している状態です。
-
特長:
-
低歪み: クロスオーバー歪みが全く発生しないため、音質の忠実度が高いです。
-
高効率: 入力信号がない状態でも常に大きな電流が流れているため、効率が悪いです。常に発熱しています。
-
用途: 高音質のオーディオアンプや、低出力の増幅回路に適しています。
-
2. B級増幅回路 (Class B)
-
動作: PNPトランジスタとNPNトランジスタをペアで使用し、入力信号の正側でNPNが、負側でPNPがそれぞれ半分ずつ導通します。
-
特長:
-
高効率: 入力信号がないときは電流がほとんど流れないため、効率が良いです。
-
歪み: 2つのトランジスタが切り替わる際に、ゼロクロス付近で電流が途切れる「クロスオーバー歪み」が発生します。これが音質の劣化に繋がります。
-
用途: 高出力のアンプや、バッテリー駆動の機器など、効率が重視される場合に用いられます。
-
3. AB級増幅回路 (Class AB)
-
動作: A級とB級の中間に位置する方式です。PNPとNPNのペアを使い、わずかにバイアス電流を流すことで、入力信号がゼロクロス付近でも両方のトランジスタがわずかに導通するように設定します。
-
特長:
-
低歪み: クロスオーバー歪みを大幅に軽減できます。A級には及ばないものの、B級よりも遥かに低歪みです。
-
高効率: A級よりは効率が良く、B級よりは効率が悪いです。実用的なバランスの取れた方式と言えます。
-
用途: 現在のオーディオアンプの主流であり、高音質と効率を両立させる必要がある場合に広く使われています。
-
PNPとNPNトランジスタ
増幅回路では、PNP型とNPN型のトランジスタがペアで使われることが一般的です。これを「プッシュプル回路」と呼びます。
-
NPNトランジスタ: エミッタからコレクタに電流が流れるトランジスタです。通常、増幅回路では入力信号の正側を担当します。
-
PNPトランジスタ: コレクタからエミッタに電流が流れるトランジスタです。通常、増幅回路では入力信号の負側を担当します。
これらのトランジスタを組み合わせることで、正負両方の信号を増幅することができます。
低歪み (Low Distortion)
「低歪み」とは、増幅された信号が元の入力信号の波形からどれだけ忠実であるかを示す指標です。歪みは、増幅回路の非線形性によって発生します。
-
主な歪みの種類:
-
高調波歪み: 基本波の整数倍の周波数の成分が生成される歪みです。
-
相互変調歪み: 複数の周波数成分を含む信号が増幅される際に、元の信号にはなかった新たな周波数成分が生成される歪みです。
-
クロスオーバー歪み: B級増幅回路に特有の歪みで、信号のゼロクロス付近で波形が不連続になるものです。
-
AB級増幅回路は、A級増幅回路の低歪み性とB級増幅回路の高効率性の両方をバランス良く備えているため、現代のオーディオ機器で広く採用されています。バイアス電流の適切な設定が、低歪みを実現するための重要なポイントとなります。