EUVレジスト技術は、最先端の半導体製造において、回路線幅が7ナノメートル(nm)以下の極端な微細化を実現するために不可欠な材料技術です。
EUV(Extreme Ultraviolet、極端紫外線)リソグラフィは、従来のArFエキシマレーザー(波長193nm)より遥かに短い波長13.5nmの光を使用しますが、この特殊な光に対応するための感光性樹脂(フォトレジスト)がEUVレジストです。
1. EUVレジストの仕組みと種類
EUVレジストは、EUV光のエネルギーを効率よく利用して化学反応を起こし、ウェーハ上に回路パターンを形成します。
a. 化学増幅型(CAR: Chemically Amplified Resist)
現在、EUVリソグラフィの主流となっているレジストです。
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露光の仕組み: EUV光がレジスト中のポリマーに当たると、ポリマーがイオン化し、二次電子を放出します。この二次電子がレジストに含まれる**光酸生成剤(PAG: Photo Acid Generator)**に吸収され、酸が発生します。
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増幅反応: 露光後の加熱工程(PEB: Post Exposure Bake)で、発生した酸が触媒として機能し、ポリマーの溶解性を変化させる化学反応を連鎖的に増幅させます。
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構成要素:
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ポリマー(ベース樹脂): パターンを形成する骨格。
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光酸生成剤 (PAG): EUV光を受けて酸を発生させる。
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クエンチャー: 発生した酸を中和し、酸の拡散を制御してパターンエッジの均一性(LWRの低減)を向上させる。
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b. メタルレジスト(金属含有レジスト)
次世代(High-NA EUV以降)の有力候補として注目されています。
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仕組み: ハフニウム(Hf)やスズ(Sn)などの金属原子をポリマー骨格や添加剤としてレジストに含有させます。
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利点: 金属がEUV光を効率よく吸収するため、レジストの感度が大幅に向上します。また、エッチング耐性が高いため、レジスト膜を薄くでき、微細パターンの倒れ(パターントップリング)を防ぐことで解像性向上に繋がります。
2. EUVレジストに求められる性能と課題
EUVレジストには、半導体のさらなる微細化を進めるために、従来のレジスト以上に高い性能が要求されます。
| 性能指標 | 概要 | 課題と対策 |
| 高解像性 (Resolution) | 微細なパターンを正確に形成する能力。 | EUV光の短い波長を最大限に活かすため、酸の拡散を極限まで抑える材料設計が必要。 |
| 高感度 (Sensitivity) | 少ない露光量でパターンを形成できる能力。 | EUV光源の出力が限られているため、生産性を上げるには感度向上が必須。メタルレジストが有効。 |
| LWRの低減 | パターンエッジの粗さ(線幅のばらつき)を抑える能力。 | LWR (Line Width Roughness) はトランジスタの性能に直結する課題。ポリマーの分子サイズを小さくする、酸拡散を精密に制御するなどの対策が進行中。 |
| エッチング耐性 | 後のエッチング工程で、レジスト膜が削られずにパターンを保護する能力。 | レジストの薄膜化が進むにつれ、より高いエッチング耐性が求められる。メタルレジストが優位性を持つ。 |
EUVレジスト開発は、これら**「解像度」「感度」「LWR」の三大課題(RTTトレードオフ)**をいかにバランスよく克服するかに集中しています。特に、High-NA EUV(開口数0.55)時代に向けては、レジスト膜のさらなる薄膜化と、それに伴うLWRの増大が最大の技術的障壁となっています。
3. 開発動向と市場
EUVレジストは、日本企業が強い競争力を持つ分野の一つです。
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市場構造: 世界のEUVフォトレジスト市場は、少数のグローバル企業(特に日本企業)が市場シェアの90%以上を占めており、高い技術障壁があります。
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今後の焦点: 現在の3nmノードから、2nm、そしてHigh-NA EUVが導入される次世代に向けて、化学増幅型レジストの限界を突破するためにメタルレジストの実用化が大きな焦点となっています。



