TECHMIZE 社 高精度ソース・メジャー・ユニット 型式:TH199X

GaNパワーデバイスのゲート駆動回路設計における重要な注意点。GaNとSiの異なる物理的特性に起因するもので、特に高速スイッチング回路では深刻な問題になり得ます。


 

GaNとSiのゲート電圧の違い 🔋

 

  • Si (シリコン) パワーデバイス: 一般的なシリコン製のパワーMOSFETは、ゲート電圧が10Vから20V程度で駆動されることが多く、ゲートの耐圧も比較的高いです。

  • GaN (窒化ガリウム) パワーデバイス: GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)は、ゲートの閾値電圧 (Vth) が2V程度と非常に低いのが特徴です。そのため、少しでもゲート電圧が上昇すると素子がONしてしまい、制御が難しくなります。また、ゲートの耐圧もSiに比べて低く、過剰な電圧がかかると素子が破壊されるリスクがあります。


 

急激な電圧変化が問題になる理由 ⚡️

 

GaNはSiに比べて非常に高速にスイッチングできるため、回路内のインダクタンスやコンデンサに起因する**寄生的な電圧変動(スパイク電圧)**が発生しやすくなります。このスパイク電圧が、GaNの低い閾値電圧や耐圧を超えてしまうと、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

  • 誤動作: ターンオフ時に発生するスパイク電圧によってゲート電圧が閾値電圧を超え、意図せず素子がONしてしまうことがあります。これを**「誤ターンオン」**と呼びます。

  • 素子の破壊: ゲートの耐圧を超えるような大きなスパイク電圧が発生すると、ゲート絶縁膜が破壊され、素子が故障します。


 

対策方法 🛠️

 

これらの問題を回避するため、GaNパワーデバイスを駆動する際には、以下のような対策が講じられます。

  • ゲート駆動回路の最適化: 寄生インダクタンスを最小限に抑えるため、ゲートドライバICとGaN素子をできるだけ近くに配置し、配線を短くします。

  • 負のゲートバイアスの利用: ターンオフ時にゲートに負の電圧を印加することで、誤ターンオンを防ぎ、素子の安定性を高めます。

  • 専用ゲートドライバICの使用: GaNの特性に特化して設計されたゲートドライバICを使用することで、高速スイッチング時にも安定した駆動が可能になります。このドライバは、高いCMTI(コモンモード過渡耐性)を持ち、急峻な電圧変動に耐えることができます。

  • スナバ回路の追加: 回路にスナバ回路(RCやRCDスナバ)を追加することで、ターンオフ時のスパイク電圧を抑制し、素子を保護します。

 

 

GaNパワーデバイスのゲート駆動回路設計では、その高速なスイッチング性能を最大限に引き出すために、いくつかの重要な注意点があります。

 

ゲート駆動電圧の管理

 

GaNデバイスは、シリコンMOSFETに比べてゲート-ソース間電圧の許容範囲が狭く、特に最大定格電圧が低いのが特徴です。多くの製品で推奨されるゲート駆動電圧は5Vですが、最大定格電圧は6V程度と余裕が少ないため、過大な電圧印加はデバイスの損傷につながります。

  • 低いスレッショルド電圧: GaNデバイスはスレッショルド電圧が低く、ノイズによる誤ターンオンが起こりやすいです。このため、オフ状態を確実に保つために負のゲート電圧を印加することが有効です。

  • 電圧スパイクとリンギング: 高速スイッチングによって発生する電圧スパイクやリンギングが、ゲート-ソース間電圧の最大定格を超えてデバイスを破壊する可能性があります。ゲート抵抗の調整や、ケルビン接続(ソースを制御側と電力側で分離する)などの対策が重要です。


 

寄生インダクタンスの最小化

 

高速スイッチング動作は、わずかな寄生インダクタンスでも大きな電圧変動を引き起こします。これがゲート駆動回路のノイズや誤動作の原因になります。

  • 配線レイアウト: ゲートドライバICとGaNデバイス間の配線は、できるだけ短く、太く設計する必要があります。ループ面積を最小化し、寄生インダクタンスを削減することで、スイッチング性能を向上させ、リンギングを抑制できます。

  • ケルビン接続: デバイスのソース端子をゲート駆動回路のグランドから分離するケルビン接続は、共通ソースインダクタンスの影響を排除し、ゲート駆動信号の波形を安定させるのに非常に有効です。


 

高dv/dt耐性

 

GaNデバイスは非常に高いdv/dt(電圧の変化率)でスイッチングするため、ゲートドライバICには高いコモンモード過渡耐性(CMTI)が求められます。

  • ミラー効果: ハーフブリッジ回路では、片側のデバイスがターンオフする際、ミラー効果によりもう片方のデバイスが誤ってターンオンするリスクがあります。これに対処するために、ゲートドライバICは高いCMTIを持つものが推奨されます。また、ミラークランプ機能を持つドライバICを使用することで、オフ状態のゲート電圧を安定させることができます。


 

その他の考慮事項

 

  • ゲート抵抗: ゲート抵抗(Rg)はスイッチング速度とリンギングのトレードオフを調整する重要な要素です。小さすぎるとリンギングが大きくなり、大きすぎるとスイッチング速度が低下します。

  • ゲート漏れ電流: GaNデバイスはシリコンMOSFETよりもゲート漏れ電流が大きい傾向にあります。設計時には、この漏れ電流がドライバICの消費電力に与える影響を考慮する必要があります。

  • ターンオフ時の逆回復: GaNデバイスにはボディダイオードがないため、逆回復電荷(Qrr)はほぼゼロです。これにより、デッドタイムを非常に短く設定でき、効率を向上させることが可能です。ただし、デッドタイムが短すぎると貫通電流(アームショート)が発生するリスクがあるため、適切なデッドタイムの設定が重要です。

 

 

T&MコーポレーションではTechmize社の高電圧CV測定器、SIGLENT社の8ch/12bit/1GHz帯域オシロスコープ、Micsig社の光アイソレーション差動プローブなどにより、GaN半導体を使用した製品開発を加速いたします。お気軽にお問い合わせフォームよりご相談くださいませ。
http://tm-co.co.jp/contact/

 

 

 

 

 
下記資料では「次世代パワー半導体を理解するためのパワエレ基礎」について動画で詳しく解説されています。
 
 
次世代パワー半導体を理解するためのパワエレ基礎コース-パワエレ初級から中・上級へステップアップしよう!全12回視聴して、初級から中・上級へステップアップ確実!うけおいます! 【本シリーズ全12回のリスト】
第1回 整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、ショットキーバリアダイオードの基本原理を理解し、バイポーラ型・ユニポーラ型の長所短所を知ろう
第2回 MOSFET、IGBT、サイリスタの基本原理を理解し、オンオフさせる妙技を知ろう   • ②MOSFET、IGBT、サイリスタの基本原理を理解し、オンオフさせる妙技を知ろう-...  
第3回 そもそも電力変換って何?4つの方式を知るだけで全ての電力変換がわかる    • ③そもそも電力変換って何?4つの方式を知るだけで全ての電力変換がわかる-次世代パワー...  
第4回 電力変換効率とその計算法と省エネが求められる諸般の事情+蛍や人間の生態系エネルギー効率は?
第5回 Web回路シミュレーターの活用(ボタンを選択するだけ!パワエレの回路動作がビジュアルで理解できる便利な無料ツール!)
第6回 Si-IGBTの新構造が続々登場!進化はまだまだ止まらない
第7回 SiC, GaN, 酸化ガリウムGa2O3, ダイヤモンド半導体を全部解説
第8回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信
第9回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) c)太陽光発電 e)蓄電システム
第10回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) e)UPS f) インダクション・ヒーター
第11回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) g) 急速充電 h) ワイヤレス給電
第12回(シリーズ最終回) SiCパワー半導体の電気自動車EVへの使用例(走行用インバータ、オンボード充電器を一気に解説)
 
【本パワエレ基礎コースの目次】
1.パワーエレクトロニクスの基本の基本編 a)パワー半導体デバイスの種類 次世代パワー半導体の理解を目的に分類し特長を解説 (整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBT、GTO) b)そもそも電力変換って、何のために、何をしてるの? 4方式(DCDC、DCAC、ACDC、ACAC)の例を挙げて理解
2.損失の考え方と電力変換の高効率化 a)電力変換とは?その測定例 b)高効率が求められる背景 c)MOSFET損失の簡単な計算例 d)Web回路シミュレーターの活用
3.次世代パワーデバイスの種類と概説 a)Si-IGBTの新構造が続々登場 b)シリコンカーバイド c)窒化ガリウム d)酸化ガリウム e)ダイヤモンド
4.パワーデバイスの最新応用例 (特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信 c)太陽光発電 d) 蓄電システム e) UPS f)インダクション・ヒーター g)急速充電 h) ワイヤレス給電 i) 電気自動車への利用(オンボード充電器、トラクションモーター)
5. その他(本シリーズ外で動画公開中+順次新規公開) a)パワーデバイスの市場動向(2,3カ月毎) b)パワーMOSFETの高性能を引き出す設計例 c)新興アプリケーション紹介
 
--------このチャンネルの目的------------
 
SiCパワーデバイスの最新技術や特徴を分かりやすく説明したYouTubeチャンネルです。    / @sic-powersemiconductor   パワー半導体とは?なんに役立ってるの? 最近よく聞くワイドバンドギャップ・パワー半導体って何? なぜ今、SiC、GaN、酸化ガリウムやダイヤモンドが注目を浴びているの? シリコンのパワー半導体と比べて何が違うの?その特徴と長所は? どんなところ(装置や製品)に使われるの? パワー半導体の旬な情報を丁寧に分かりやすい動画にしてアップしています。 資料のご請求・ご質問がありましたらいつでもご連絡下さい。
 
出典:SiCパワー半導体推進部
 
 
 

関連製品

関連製品