SIGLENT(シグレント)SDS5000X HDシリーズ デジタル・オシロスコープ

GaNパワーデバイスのゲート駆動回路設計における重要な注意点。GaNとSiの異なる物理的特性に起因するもので、特に高速スイッチング回路では深刻な問題になり得ます。


 

GaNとSiのゲート電圧の違い 🔋

 

  • Si (シリコン) パワーデバイス: 一般的なシリコン製のパワーMOSFETは、ゲート電圧が10Vから20V程度で駆動されることが多く、ゲートの耐圧も比較的高いです。

  • GaN (窒化ガリウム) パワーデバイス: GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)は、ゲートの閾値電圧 (Vth) が2V程度と非常に低いのが特徴です。そのため、少しでもゲート電圧が上昇すると素子がONしてしまい、制御が難しくなります。また、ゲートの耐圧もSiに比べて低く、過剰な電圧がかかると素子が破壊されるリスクがあります。


 

急激な電圧変化が問題になる理由 ⚡️

 

GaNはSiに比べて非常に高速にスイッチングできるため、回路内のインダクタンスやコンデンサに起因する**寄生的な電圧変動(スパイク電圧)**が発生しやすくなります。このスパイク電圧が、GaNの低い閾値電圧や耐圧を超えてしまうと、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

  • 誤動作: ターンオフ時に発生するスパイク電圧によってゲート電圧が閾値電圧を超え、意図せず素子がONしてしまうことがあります。これを**「誤ターンオン」**と呼びます。

  • 素子の破壊: ゲートの耐圧を超えるような大きなスパイク電圧が発生すると、ゲート絶縁膜が破壊され、素子が故障します。


 

対策方法 🛠️

 

これらの問題を回避するため、GaNパワーデバイスを駆動する際には、以下のような対策が講じられます。

  • ゲート駆動回路の最適化: 寄生インダクタンスを最小限に抑えるため、ゲートドライバICとGaN素子をできるだけ近くに配置し、配線を短くします。

  • 負のゲートバイアスの利用: ターンオフ時にゲートに負の電圧を印加することで、誤ターンオンを防ぎ、素子の安定性を高めます。

  • 専用ゲートドライバICの使用: GaNの特性に特化して設計されたゲートドライバICを使用することで、高速スイッチング時にも安定した駆動が可能になります。このドライバは、高いCMTI(コモンモード過渡耐性)を持ち、急峻な電圧変動に耐えることができます。

  • スナバ回路の追加: 回路にスナバ回路(RCやRCDスナバ)を追加することで、ターンオフ時のスパイク電圧を抑制し、素子を保護します。

 

 

GaNパワーデバイスのゲート駆動回路設計では、その高速なスイッチング性能を最大限に引き出すために、いくつかの重要な注意点があります。

 

ゲート駆動電圧の管理

 

GaNデバイスは、シリコンMOSFETに比べてゲート-ソース間電圧の許容範囲が狭く、特に最大定格電圧が低いのが特徴です。多くの製品で推奨されるゲート駆動電圧は5Vですが、最大定格電圧は6V程度と余裕が少ないため、過大な電圧印加はデバイスの損傷につながります。

  • 低いスレッショルド電圧: GaNデバイスはスレッショルド電圧が低く、ノイズによる誤ターンオンが起こりやすいです。このため、オフ状態を確実に保つために負のゲート電圧を印加することが有効です。

  • 電圧スパイクとリンギング: 高速スイッチングによって発生する電圧スパイクやリンギングが、ゲート-ソース間電圧の最大定格を超えてデバイスを破壊する可能性があります。ゲート抵抗の調整や、ケルビン接続(ソースを制御側と電力側で分離する)などの対策が重要です。


 

寄生インダクタンスの最小化

 

高速スイッチング動作は、わずかな寄生インダクタンスでも大きな電圧変動を引き起こします。これがゲート駆動回路のノイズや誤動作の原因になります。

  • 配線レイアウト: ゲートドライバICとGaNデバイス間の配線は、できるだけ短く、太く設計する必要があります。ループ面積を最小化し、寄生インダクタンスを削減することで、スイッチング性能を向上させ、リンギングを抑制できます。

  • ケルビン接続: デバイスのソース端子をゲート駆動回路のグランドから分離するケルビン接続は、共通ソースインダクタンスの影響を排除し、ゲート駆動信号の波形を安定させるのに非常に有効です。


 

高dv/dt耐性

 

GaNデバイスは非常に高いdv/dt(電圧の変化率)でスイッチングするため、ゲートドライバICには高いコモンモード過渡耐性(CMTI)が求められます。

  • ミラー効果: ハーフブリッジ回路では、片側のデバイスがターンオフする際、ミラー効果によりもう片方のデバイスが誤ってターンオンするリスクがあります。これに対処するために、ゲートドライバICは高いCMTIを持つものが推奨されます。また、ミラークランプ機能を持つドライバICを使用することで、オフ状態のゲート電圧を安定させることができます。


 

その他の考慮事項

 

  • ゲート抵抗: ゲート抵抗(Rg)はスイッチング速度とリンギングのトレードオフを調整する重要な要素です。小さすぎるとリンギングが大きくなり、大きすぎるとスイッチング速度が低下します。

  • ゲート漏れ電流: GaNデバイスはシリコンMOSFETよりもゲート漏れ電流が大きい傾向にあります。設計時には、この漏れ電流がドライバICの消費電力に与える影響を考慮する必要があります。

  • ターンオフ時の逆回復: GaNデバイスにはボディダイオードがないため、逆回復電荷(Qrr)はほぼゼロです。これにより、デッドタイムを非常に短く設定でき、効率を向上させることが可能です。ただし、デッドタイムが短すぎると貫通電流(アームショート)が発生するリスクがあるため、適切なデッドタイムの設定が重要です。

 

 

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