高電圧半導体CV特性測定器 TECHMIZE TH51Xシリーズ

GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスは、従来のSi(シリコン)に比べて高速スイッチングが可能で、電力変換効率を大幅に向上させることができます。しかし、この高速性を最大限に活かすためには、寄生容量の影響をいかにして抑えるかが重要になります。

 

寄生容量とは?

 

寄生容量とは、半導体デバイスや回路基板の配線に意図せず発生する不要な静電容量です。GaNデバイスは、Siデバイスに比べて出力容量()やゲート容量()が小さいという特長を持ちますが、それでもこれらの寄生容量はスイッチング時の損失に直接影響します。

  • スイッチング損失: スイッチングのオン・オフ時に、寄生容量の充放電によってエネルギーが消費されます。スイッチング周波数が高くなると、この充放電の頻度が増えるため、損失が顕著になります。

  • ノイズとリンギング: 寄生容量と寄生インダクタンスが共振することで、電圧や電流のリンギング(振動)が発生し、電磁ノイズ(EMI)の原因となります。これにより、デバイスの誤動作や劣化を引き起こす可能性があります。


 

寄生容量を抑えて効率を向上させる方法

 

GaNパワーデバイスの電力変換効率を向上させるためには、主に以下の方法で寄生容量の影響を低減します。

 

1. パッケージングの最適化

 

デバイスのパッケージ自体が持つ寄生容量や寄生インダクタンスを最小限に抑えることが重要です。低インダクタンスのパッケージング技術(例:LGAパッケージ)を採用することで、スイッチング時のリンギングを抑制し、損失を低減できます。

 

2. PCB(プリント基板)レイアウトの最適化

 

寄生容量と寄生インダクタンスは、基板の配線パターンに大きく依存します。

  • 配線の短縮: スイッチング電流が流れるループ(スイッチング・ループ)をできるだけ短く、コンパクトに設計します。これにより、インダクタンスが減少し、リンギングが抑えられます。

  • 広い配線幅: 高電流が流れる配線は幅を広くすることで、抵抗を減らし、導通損失を低減します。

  • 多層基板の活用: 多層基板を使用し、パワープレーンとグラウンドプレーンを適切に配置することで、寄生容量とインダクタンスを管理しやすくなります。

  • ゲート駆動回路の最適化: ゲート駆動回路の配線も短く、低インダクタンスに保つことで、ゲートの充放電損失を抑え、高速なスイッチング性能を最大限に引き出します。

 

3. 共振型コンバータ回路の採用

 

共振型コンバータなどのソフトスイッチング技術を導入することで、電圧や電流がゼロの状態でスイッチングを行うゼロ電圧スイッチング (ZVS)ゼロ電流スイッチング (ZCS) を実現します。これにより、寄生容量の充放電によるスイッチング損失を大幅に低減できます。GaNデバイスは、その低容量特性から、ZVSを比較的容易に実現できるため、高周波動作において特に高い効率を発揮します。


 

まとめ

 

GaNパワーデバイスの電力変換効率をさらに高めるには、デバイス自体の性能に加え、寄生容量を考慮した回路設計実装技術が不可欠です。低寄生インダクタンスのパッケージング、最適化されたPCBレイアウト、そしてソフトスイッチング技術の活用が、GaNの潜在能力を最大限に引き出し、高効率・高密度な電力変換を実現する鍵となります。

 

 

 

 
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第1回 整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、ショットキーバリアダイオードの基本原理を理解し、バイポーラ型・ユニポーラ型の長所短所を知ろう
第2回 MOSFET、IGBT、サイリスタの基本原理を理解し、オンオフさせる妙技を知ろう   • ②MOSFET、IGBT、サイリスタの基本原理を理解し、オンオフさせる妙技を知ろう-...  
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第4回 電力変換効率とその計算法と省エネが求められる諸般の事情+蛍や人間の生態系エネルギー効率は?
第5回 Web回路シミュレーターの活用(ボタンを選択するだけ!パワエレの回路動作がビジュアルで理解できる便利な無料ツール!)
第6回 Si-IGBTの新構造が続々登場!進化はまだまだ止まらない
第7回 SiC, GaN, 酸化ガリウムGa2O3, ダイヤモンド半導体を全部解説
第8回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信
第9回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) c)太陽光発電 e)蓄電システム
第10回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) e)UPS f) インダクション・ヒーター
第11回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) g) 急速充電 h) ワイヤレス給電
第12回(シリーズ最終回) SiCパワー半導体の電気自動車EVへの使用例(走行用インバータ、オンボード充電器を一気に解説)
 
【本パワエレ基礎コースの目次】
1.パワーエレクトロニクスの基本の基本編 a)パワー半導体デバイスの種類 次世代パワー半導体の理解を目的に分類し特長を解説 (整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBT、GTO) b)そもそも電力変換って、何のために、何をしてるの? 4方式(DCDC、DCAC、ACDC、ACAC)の例を挙げて理解
2.損失の考え方と電力変換の高効率化 a)電力変換とは?その測定例 b)高効率が求められる背景 c)MOSFET損失の簡単な計算例 d)Web回路シミュレーターの活用
3.次世代パワーデバイスの種類と概説 a)Si-IGBTの新構造が続々登場 b)シリコンカーバイド c)窒化ガリウム d)酸化ガリウム e)ダイヤモンド
4.パワーデバイスの最新応用例 (特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信 c)太陽光発電 d) 蓄電システム e) UPS f)インダクション・ヒーター g)急速充電 h) ワイヤレス給電 i) 電気自動車への利用(オンボード充電器、トラクションモーター)
5. その他(本シリーズ外で動画公開中+順次新規公開) a)パワーデバイスの市場動向(2,3カ月毎) b)パワーMOSFETの高性能を引き出す設計例 c)新興アプリケーション紹介
 
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出典:SiCパワー半導体推進部