
GPRデータ解析におけるFWIは、Full-Waveform Inversion(フルウェーブフォームインバージョン、全波形逆解析)の略です。
これは、地中レーダ(GPR)で観測された全ての波形情報(初動、反射波、散乱波など)を総合的に用いて、地中の電気特性(比誘電率や導電率)の空間分布を高分解能で推定する逆解析手法です。
FWIの動作原理
FWIは、基本的に最適化問題を解く反復プロセスです。
-
初期モデルの設定: まず、地下構造の初期推定モデル(電気特性の初期分布)を設定します。
-
順問題シミュレーション(フォワードモデリング): その初期モデルに対して、FDTDなどの数値計算手法を用いて、GPR信号の伝播をシミュレーションし、理論的な受信波形(理論波形)を計算します。
-
目的関数の評価: 計算された理論波形と、実際にGPRで観測された実測波形との間の差(誤差)を定義する目的関数(コスト関数)を計算します。
-
モデルの修正: この目的関数を最小化する方向、つまり誤差を減らす方向に、初期モデル(地中特性)を修正します。この修正方向の計算には、通常、**随伴法(Adjoint Method)**などの高度な数学的手法が用いられます。
-
反復: 上記のプロセス(2.から4.)を、誤差が許容範囲に収束するまで繰り返します。
最終的に得られた地中モデルが、観測された波形を最もよく再現する地中構造、すなわち推定される電気特性分布となります。
FWIの利点と課題
🌟 FWIの主な利点
-
高分解能: 従来の逆解析手法(例:走時トモグラフィ)が初動の到達時間のみを利用するのに対し、FWIは波形の全体(振幅と位相の全て)を利用するため、地中構造をより詳細かつ高分解能に推定できます。
-
定量的推定: 地中の**電気特性値(比誘電率、導電率)**を定量的に推定できるため、埋設物の材質や含水率などに関するより正確な情報が得られます。
⚠️ FWIの主な課題
-
計算コスト: FDTDなどの順問題シミュレーションと、モデルを反復修正するための計算(勾配計算)に膨大な計算リソースと時間が必要です。これが、現場でのリアルタイム解析を困難にする最大の要因です。
-
初期モデル依存性: 非線形な問題であるため、初期モデルが真の構造から大きく外れていると、最適化が誤った解(局所最小値)に収束してしまうリスクがあります。
深層学習(DL)との関連
前述のように、深層学習はFWIが抱える「計算コストが高い」という課題を解決するために利用され始めています。
-
DLによるFWIの加速: DLモデルを訓練してFDTDシミュレーションの代わりに用いることで、反復計算のステップを大幅に高速化し、FWIの処理時間を短縮するハイブリッド手法が研究されています。
-
DLによる逆問題の直接解決: FWIのような反復計算を行わず、GPRデータ(波形)を直接地中特性マップにマッピングするエンドツーエンドのDLモデル(例:GPRInvNet)も開発されています。