Heterogeneous Integration(ヘテロジニアス・インテグレーション、異種統合)チップとは、機能や製造プロセス、あるいは材料が異なる複数の半導体チップ(ダイ)を、単一のパッケージ内に高密度に集積し、全体として一つの高性能システムとして機能させる技術、およびそれによって作られたチップのことです。
これは、トランジスタの微細化による性能向上の限界(ムーアの法則の減速)と、製造コストの高騰という課題を打破するために、次世代の半導体技術の主流として注目されています。
1. 概念と背景
従来のモノリシックチップとの違い
| 項目 | モノリシック(単一)チップ | ヘテロジニアス・インテグレーション・チップ |
| 構造 | すべての機能(CPU、メモリコントローラ、I/Oなど)を一つの巨大なシリコンダイに集積。 | 機能ごとに分割された小さな複数のチップレットをパッケージ内で接続。 |
| プロセス | すべての機能に単一のプロセスノード(例:最先端の3nm)を適用する必要がある。 | 機能ごとに最適なプロセスノード(例:CPUコアは3nm、I/Oは成熟した16nm)を選択できる。 |
「チップレット」との関係
ヘテロジニアス・インテグレーションの核となる要素が「チップレット (Chiplet)」です。チップレットとは、巨大なモノリシックなチップを機能ごとに分割した小さな良品ダイのことです。
ヘテロジニアス・インテグレーションは、これらの異種のチップレットを高度なパッケージング技術を用いて統合する技術全体を指します。
2. 主なメリット
Heterogeneous Integrationを採用することで、以下のメリットが得られます。
-
📈 コストと歩留まりの改善:
-
巨大なチップよりも小さなチップレットのほうが、製造時に欠陥が発生するリスクが低く、歩留まりが大幅に向上します。
-
全機能を最先端プロセスで製造するのではなく、機能に応じて最適なプロセスを選ぶことで、製造コストを最適化できます。
-
-
🚀 性能と電力効率の向上:
-
複数のチップを2.5Dや3Dで積層することで、チップ間の配線長がマイクロメートル ($\mu\text{m}$) オーダーに劇的に短縮されます。
-
これにより、信号の遅延が減少し、高速化と低電力化が実現します。
-
-
🛠️ 設計の柔軟性とカスタム化:
-
CPU、メモリ、AIアクセラレータなどのチップレットをレゴブロックのように組み合わせて、特定の用途に特化したカスタムシステムを迅速に構築できます。
-
3. 主要な統合技術(先端パッケージング)
チップレットを一つのシステムとして機能させるための重要な技術が、**先端パッケージング(Advanced Packaging)**技術です。
| 技術分類 | 概要 | 特徴 |
| 2.5D インテグレーション | ロジックチップとHBM(高帯域メモリ)などをインターポーザー(中継基板)の上に平面に並べ、高密度に接続する技術。 | SiインターポーザーやRDL(再配線層)インターポーザーを使用し、チップ間の配線密度を向上させる。 |
| 3D インテグレーション | 異なるチップ(ロジックとメモリなど)をTSV(シリコン貫通電極)を用いて垂直に積層する技術。 | チップ間の配線長を極限まで短縮でき、最も高い性能と電力効率を実現するが、熱管理が課題。 |
| ハイブリッド・ボンディング | 3D積層において、より微細で多数の接続端子を高精度で接合する技術。TSV接続をより高性能化する。 |
これらの技術によって、Heterogeneous Integration チップは、AI、高性能コンピューティング(HPC)、データセンターなどの分野で、システム性能を飛躍的に向上させる鍵となっています。



