
― 自動化・システム統合に向けた通信制御ガイド ―
本章では、TH2883Sシリーズが対応するリモート制御インターフェースと、SCPI(Standard Commands for Programmable Instruments)準拠のコマンド体系について解説します。PCやPLCなど外部装置からの制御により、生産ラインや自動検査環境への組み込みが可能となります。
1. リモート制御の全体構成
TH2883Sシリーズでは以下のリモート通信方式をサポートしています:
インターフェース | 内容 | 用途 |
RS232C | シリアル通信 | PLC/PC連携、小規模制御に最適 |
USB(Device) | 仮想COMポート通信 | PCから直接制御 |
LAN(LXI準拠) | IPベース通信 | 上位システムへの組み込み |
Handler I/O | 外部信号による合否制御 | 自動機器との連携(TTL信号) |
2. SCPIとは
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SCPI(エス・シー・ピー・アイ)は、IEEE488.2に基づいた、測定器制御用の標準化コマンド体系です。
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すべてのコマンドはASCII文字列で構成され、PCから送信されることで、測定器を操作・設定・データ取得できます。
3. 基本的なSCPIコマンド形式
3.1 コマンド構造
コマンド(大文字) + 引数
例:VOLT 2500 → 電圧を2500Vに設定
3.2 クエリ形式(?付き)
コマンド + ?
例:VOLT? → 現在の設定電圧を取得
3.3 実行例(PC制御)
*RST 初期化
VOLT 3000 電圧を3000Vに設定
CHAN 1 チャネル1を選択
TRIG 測定トリガ実行
VRES? 測定結果を読み出し
4. 主要SCPIコマンド一覧(抜粋)
カテゴリ | コマンド例 | 説明 |
初期化 | *RST |
工場出荷時設定へリセット |
測定制御 | TRIG |
単発トリガ |
電圧設定 | VOLT 2500 |
2500Vに設定 |
電圧取得 | VOLT? |
現在の電圧を取得 |
チャネル指定 | CHAN 2 |
チャネル2を使用 |
チャネル取得 | CHAN? |
現在のチャネル |
測定結果 | VRES? |
合否判定(PASS/FAIL)を返す |
波形データ取得 | WAVE? |
バイナリ形式で波形データを出力 |
5. 通信設定の確認と準備
5.1 RS232C設定(本体側)
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ボーレート:115200bps推奨
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データビット:8、ストップビット:1、パリティ:なし
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フロー制御:なし
5.2 USB Device設定
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USB接続時にPC側へ仮想COMポートとして認識
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必要に応じてドライバ(CH340など)を導入
5.3 LAN設定
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IPアドレス:DHCP/固定いずれも可
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LXI規格に準拠
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Telnetまたはソケット通信(PORT 5025推奨)
6. 自動化活用事例
導入シーン | 活用例 |
生産ライン | 合否判定を自動で取り込み、ハンドラー制御と連動 |
評価システム | LabVIEWやPythonでリモート操作スクリプトを構築 |
品質保証 | 波形データを定期的に取得・保存して記録証跡を作成 |
7. 注意事項
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各コマンドの送信後は、応答完了を待つウェイト時間を設定すること
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測定中はコマンド受付を一時停止する場合があるため、ステータス確認を入れることが推奨されます
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ファームウェアバージョンによりコマンド仕様が一部異なる場合あり
まとめ
TH2883Sは、SCPIコマンドによるフルリモート制御に対応しており、制御用PCや自動化システムに柔軟に組み込むことが可能です。標準化された通信仕様により、他測定器との統合や長期運用にも対応しやすく、企業の生産性向上に寄与します。
インパルス巻線試験器の入門①- 試験原理・構成・基本仕様の理解
インパルス巻線試験器の入門②-主要仕様と波形比較手法の解説
インパルス巻線試験器の入門③-測定表示とディスプレイ機能
インパルス巻線試験器の入門④-比較方式と判定アルゴリズム
インパルス巻線試験器の入門⑤-測定設定と試験ステップの構成(SETUP)
インパルス巻線試験器の入門⑥-システム設定と通信インターフェースの管理
インパルス巻線試験器の入門⑦-操作手順と標準波形の作成
インパルス巻線試験器の入門⑧-リモート制御用コマンドとSCPI準拠インターフェース
インパルス巻線試験器の入門⑨-ファイル管理とUSB/内部メモリ活用法
インパルス巻線試験器の入門⑩-インパルス試験の応用と実践的トラブル対応例