InGaZnO(Indium Gallium Zinc Oxide)を利用したセルトランジスタの立体構造化は、主にDRAMの低消費電力化と高集積化(大容量化)を目指して進められています。この立体構造化の鍵となるのは、縦型のゲートオールアラウンド(GAA)構造の採用です。
1. 立体構造の基本:縦型GAA(ゲートオールアラウンド)
InGaZnOを用いた次世代DRAM(例:OCTRAM)で開発されている立体構造は、従来の平面型トランジスタやFinFETに代わる、高い静電制御性を持つ構造です。
A. 縦型チャネル
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チャネルの向き: Si基板に対して**垂直方向**に**円筒形**または**ナノシート積層**のInGaZnO層が形成されます。
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メリット: 従来のSiトランジスタを水平方向に配置するより、セルの占有面積(フットプリント)を大幅に削減でき、4F2(フォーエフスクエア)といった高密度レイアウトの実現に不可欠です。
B. ゲートオールアラウンド(GAA)
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構造:InGaZnOチャネルの**全周(360度)**をゲート絶縁膜とゲート電極が取り囲みます。
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メリット: この完全な包囲により、ゲート電極によるチャネルの静電制御性が最大限に高まります。これにより、トランジスタがオフ状態のときの短チャネル効果(SCE)やサブスレッショルドリーク(DIBL)を極限まで抑制します。
2. InGaZnO採用の相乗効果とメリット 💡
InGaZnOという材料を立体構造に組み合わせることで、従来のSiトランジスタでは困難だった利点が生まれます。
| 特性 | InGaZnOの利点 | 立体構造(縦型GAA)との相乗効果 |
| 超低リーク | InGaZnOはワイドバンドギャップ半導体であるため、オフ電流が極めて小さい(aAレベル)。 | GAA構造による静電制御性の最大化と相まって、データ保持特性が大幅に向上し、DRAMのリフレッシュ頻度を激減させる。 |
| 高集積化 | 低温プロセスで作製可能であり、既に形成されたキャパシタの上にトランジスタを積層する**「キャパシタ1st プロセス」**が可能になる。 | 立体配置とInGaZnOのプロセス適合性により、4F2のような超高密度なセル面積を実現し、大容量化に直結する。 |
| 高信頼性 | 正孔移動度が低く、ジャンクションレス構造が容易に適用できる。 | 基板浮遊効果の発生を抑制できるため、トランジスタの動作安定性と信頼性が向上する。 |
3. 実装上のプロセスインテグレーション
この立体構造を実現するためには、高度なプロセス技術が必要です。
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積層構造: メモリセルは通常、ウェハの底面にキャパシタを、その上部にInGaZnOの縦型トランジスタを積層する形をとります。
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低温プロセス: InGaZnOは比較的低温で成膜できるため、既に作製された下層の回路(特に熱に弱いキャパシタや配線)に悪影響を与えることなく、トランジスタを形成できるという大きなプロセス上の利点があります。
この立体構造化により、低消費電力と高密度を両立させた次世代のメインメモリ(DRAM)実現への期待が高まっています。


