
電源雑音抑圧比 (PSRR) と EMC の関係
電源雑音抑圧比 (PSRR: Power Supply Rejection Ratio) と EMC (ElectroMagnetic Compatibility: 電磁両立性) は、電子機器の安定した動作と信頼性を確保するために密接に関連しています。
1. 電源雑音抑圧比 (PSRR) とは
PSRRは、電源電圧の変動やノイズをどれだけ除去できるかを示す指標です。これは、主にアナログIC(オペアンプ、A/Dコンバータ、リニア・レギュレータなど)の性能を表すもので、電源ラインに入り込んだACリップルやノイズが、ICの出力信号にどの程度影響を与えるかを示します。
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定義: 通常、電源電圧の変動 (ΔVsupply) と、それによって引き起こされる出力電圧の変動 (ΔVout) の比をデシベル (dB) で表します。
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特性: PSRRの値が大きいほど、電源ノイズを除去する能力が高いことを意味します。一般的に、PSRRは周波数によって変化し、高周波数になるにつれて性能が低下する傾向があります。
2. EMC (電磁両立性) とは
EMCは、機器が電磁環境において、他の機器に不要な電磁妨害を与えず、かつ、他の機器からの電磁妨害を受けても正常に動作する能力を指します。EMCは、以下の2つの要素から構成されます。
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EMI (ElectroMagnetic Interference: 電磁妨害): 機器が外部に放出する電磁ノイズ。
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EMS (ElectroMagnetic Susceptibility: 電磁感受性): 機器が外部からの電磁ノイズに耐える能力。
3. PSRRとEMCの関係
PSRRは、EMCにおける**EMS(電磁感受性)**の重要な要素の一つです。
電子機器は、外部からさまざまな電磁ノイズ(ノイズ源は、近くにある他の電子機器、通信機器、電源ラインなど多岐にわたる)を受けます。これらのノイズは、機器の内部回路に伝導ノイズとして入り込むことがあります。特に電源ラインは、外部ノイズが侵入しやすい経路の一つです。
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PSRRの役割:
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電源ラインから侵入したノイズは、機器内の電源回路やLDO(リニア・レギュレータ)を通して各ICに供給されます。
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PSRRの性能が高いICは、この電源ライン上のノイズを効果的に除去し、出力信号への影響を最小限に抑えます。
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これにより、外部からの電磁ノイズが機器の誤動作を引き起こす可能性が低くなり、機器全体のEMS性能が向上します。
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したがって、PSRRは、電子機器が外部ノイズに対して正常に動作する能力(イミュニティ)を確保するための、内部的なノイズ対策であると言えます。EMCの試験では、機器全体のノイズ耐性が評価されますが、その性能は個々のコンポーネントのPSRR性能に大きく依存しているのです。
まとめ
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PSRRは、特定のICが電源ノイズを除去する能力を示す指標。
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EMCは、機器全体としての**ノイズ耐性(EMS)とノイズ放出(EMI)**の両立性を示す概念。
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PSRRの性能が高いことは、機器のEMC性能(特にEMS)を向上させる上で不可欠な要素である。
EMC設計においては、単にPSRRの高いICを選ぶだけでなく、電源ラインのフィルタリングやグランド設計など、システム全体でのノイズ対策を総合的に行うことが重要です。