
RFバイパス(デカップリング)は、RF回路や高速デジタル回路におけるEMC(電磁両立性)対策の重要な要素です。ここでは、RFバイパス(デカップリング)の基本的な考え方とEMC対策におけるポイントを解説します。
1. RFバイパス(デカップリング)の目的
RFバイパス、またはデカップリングとは、主に以下の2つの目的でコンデンサを使用することです。
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電源ラインの安定化(電源ノイズの除去)
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ICやアクティブなデバイスは、スイッチング動作などによって瞬時に大電流を消費することがあります。これにより、電源ラインの電圧が一時的に低下(ディップ)したり、高周波ノイズが重畳したりします。
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デカップリングコンデンサは、デバイスの電源ピンの近くに配置することで、これらの急激な電流変動を吸収し、安定した電源を供給します。
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高周波ノイズのグランドへのバイパス
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回路内で発生した高周波ノイズは、電源ラインを伝搬し、他の回路に悪影響を及ぼしたり、アンテナとなって放射ノイズ(EMI)の原因になったりします。
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デカップリングコンデンサは、高周波成分をグランドに流す(バイパスする)低インピーダンス経路を提供することで、ノイズが広がるのを防ぎます。
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2. コンデンサの選択と配置のポイント
デカップリングコンデンサは、理想的なコンデンサではなく、インダクタンス(ESL)や抵抗(ESR)といった寄生成分を持つため、その特性を理解して適切に選択・配置することが重要です。
2.1. 自己共振周波数
コンデンサのインピーダンスは、容量性インピーダンスZc = 1/(jωC)と、寄生インダクタンスによる誘導性インピーダンスZL = jωLの合成で表されます。このため、ある周波数でインピーダンスが最小になる「自己共振周波数」が存在します。
EMC対策では、対策したいノイズの周波数帯域でコンデンサのインピーダンスが最小になるように、コンデンサを選択する必要があります。
2.2. 複数コンデンサの並列接続
広帯域にわたるノイズ対策には、異なる容量値のコンデンサを複数並列に接続することが有効です。
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大容量コンデンサ(例:電解コンデンサ):低周波の電源変動を吸収します。ただし、ESLが大きいため、高周波でのインピーダンスは高くなります。
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小容量コンデンサ(例:積層セラミックコンデンサ):ESLが小さく、自己共振周波数が高いため、高周波ノイズの除去に効果を発揮します。
例えば、低周波から高周波まで安定した電源供給が必要な場合、以下のように複数のコンデンサを並列に配置します。
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低周波用:10μF~100μF程度の電解コンデンサ
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中高周波用:0.1μF~1μF程度のセラミックコンデンサ
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高周波用:100pF~1000pF程度のセラミックコンデンサ
これにより、各コンデンサの自己共振周波数を分散させ、広い周波数帯域で電源インピーダンスを低く保つことができます。
2.3. 配置と配線の最適化
コンデンサの性能を最大限に引き出すためには、基板上での配置と配線が非常に重要です。
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デバイスの電源ピンに最も近い位置に配置する:コンデンサとデバイス間の配線が長いと、その配線が持つインダクタンスがESLに加わり、自己共振周波数が低下してしまいます。ノイズ源となるデバイスの電源ピンの直近に配置することが基本です。
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配線を太く短くする:コンデンサとデバイス、グランド間の配線はできるだけ短く、かつ太くすることで、寄生インダクタンスを最小限に抑えます。
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ビアの最適化:多層基板の場合、グランドへの接続にビアを使用しますが、ビア自体にもインダクタンスが存在します。複数のビアを使い、グランドプレーンとの接続を強化することで、インピーダンスを低減できます。
3. EMC対策としてのRFバイパス
RFバイパス(デカップリング)は、単に電源を安定させるだけでなく、EMC対策として以下の効果があります。
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伝導ノイズの抑制:電源ライン上の高周波ノイズをグランドにバイパスすることで、外部に伝導するノイズを低減します。
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放射ノイズの抑制:電源ラインがアンテナとして機能することを防ぎ、不要な電磁波の放射を抑制します。
まとめ
RFバイパス(デカップリング)は、適切なコンデンサの選択と、電源ピンの近くに短く太い配線で配置することが基本となります。単一のコンデンサで全てのノイズ帯域をカバーすることは難しいため、複数のコンデンサを組み合わせて使用することが一般的です。これにより、広帯域にわたる電源インピーダンスの低減を実現し、回路の安定動作とEMC性能の向上に貢献します。