SIGLENT(シグレント) SDS800X HDシリーズ デジタル・オシロスコープ

ベイパーチャンバーVapor Chamber: VC)は、主に高性能な電子機器の熱管理に使われる、非常に効率的な熱伝導・放熱部品です。スマートフォン(特にProモデル)、高性能ノートPC、ゲーム機、サーバーなどで広く採用されています。


 

1. ベイパーチャンバーの基本原理 ⚙️

 

VCの動作原理は、ヒートパイプと同様に、液体の相変化(蒸発と凝縮)のメカニズムを利用しています。

要素 働き
筐体 平らで密閉された金属(通常は銅)の容器(チャンバー)。
作動液 少量封入された純水などの液体。熱源から熱を奪い、蒸発する役割を担います。
ウィック構造 チャンバーの内壁に設けられた微細な多孔質構造(メッシュや焼結金属)。凝縮した作動液を毛細管現象で蒸発部に還流させます。

 

動作の流れ

 

  1. 蒸発(吸熱): CPUGPUなどの発熱部に接している部分(蒸発部)で、作動液が熱を吸収し、蒸気に相変化します(潜熱)。

  2. 移動: 発生した蒸気は、密閉されたチャンバー内の圧力差を利用して、瞬時にチャンバーの隅々(比較的温度の低い部分)へ広がります。

  3. 凝縮(放熱): 広がった蒸気は、温度の低いチャンバーの内壁(凝縮部)に接触して液化し、熱を外側の筐体やヒートシンクへ放出します。

  4. 還流: 液化した作動液は、ウィック構造の毛細管現象によって再び蒸発部へ戻り、このサイクルを繰り返します。


 

2. VCの主なメリット(なぜ高性能機器に必要か)

 

VCは、従来の純粋な金属(銅など)のヒートスプレッダーと比較して、格段に高い実効熱伝導率を持ちます。

  • 高い熱輸送能力: 作動液の相変化(蒸発・凝縮)は非常に効率的で、熱を極めて高速かつ大量に輸送できます。

  • 均一な熱分散: 熱源周辺の熱を瞬時にチャンバー全体に広げ、均一な温度分布を作り出すことで、特定の場所での異常な温度上昇(ホットスポット)を防ぎます。

  • 薄型化への貢献: 従来のヒートパイプが線状の熱輸送しかできないのに対し、$\text{VC}$は平面的に熱を輸送・分散できるため、高性能でありながら薄型のデバイス設計に適しています。


 

3. ヒートパイプとの違い

 

VCはヒートパイプの原理を応用したものですが、形状と熱輸送能力に違いがあります。

特徴 ベイパーチャンバー (VC) ヒートパイプ (HP)
形状 平面状(板状、チャンバー状) 円筒状(パイプ状)
熱輸送 面的に広範囲に熱を分散・輸送 線的に熱源から離れた場所に輸送
伝導率 非常に高い(効果的な分散により) 高い(主に線方向に強い)
用途 SoCなど一点集中の高発熱を広範囲に分散させたい場合に最適

ノートPCなど、熱を離れたフィンへ運ぶ場合に最適

 

 

 

この動画では、iPhone 17 Proに導入されたベイパーチャンバー冷却システムがいかに大きなアップグレードであるかを解説しています: iPhone 17 Pro の冷却技術。