消磁・ゼロ調整・磁気飽和とは?
直流測定に対応した電流プローブを正確に使用するには、消磁、ゼロ調整、磁気飽和について理解する必要があります。
磁気コアに残留磁気がある場合や、プローブのゼロ点がずれている場合は、導体に電流が流れていなくても0Aを表示しません。また、測定電流がプローブの能力を超えると磁気飽和が発生し、波形が正しく表示されなくなります。
■消磁とは
消磁とは、電流プローブの磁気コアに残った磁気を小さくする操作です。英語ではDegaussまたはDemagnetizationと呼ばれます。
磁気コアへ大きな電流による磁界が加わると、電流を取り除いた後も磁気の一部が残る場合があります。これを残留磁気と呼びます。
残留磁気があると、測定導体に電流が流れていない状態でも、電流プローブが磁束を検出して出力を発生させます。
■残留磁気が発生する原因
磁気コアの残留磁気は、次のような操作や測定によって発生する場合があります。
・ 定格に近い大電流を測定した
・ 最大測定電流を超えた
・ 大きな直流電流を長時間測定した
・ 突入電流やパルス電流を測定した
・ 磁気コアが飽和した
・ 通電中にクランプを開閉した
・ 強い外部磁界へ近づけた
・ プローブへ衝撃を与えた
・ 測定方向を大きく変更した
残留磁気の大きさは、磁気コアの材質、測定電流、使用履歴などによって異なります。
■消磁の仕組み
一般的な消磁機能では、磁気コアへ正負が交互に変化する磁界を加え、その振幅を徐々に小さくします。
これにより、磁気コアの磁化状態を原点付近へ戻し、残留磁気を低減します。
消磁は、単にゼロ表示を電気的に移動させる操作ではありません。磁気コア自体の状態を整える操作です。この点がゼロ調整との大きな違いです。
■消磁が必要なタイミング
次のような場合には、消磁を行います。
・ 電流プローブの電源を入れた後
・ 測定を開始する前
・ 測定レンジを変更した後
・ 大電流を測定した後
・ 過負荷が発生した後
・ クランプを開閉した後
・ ゼロ点が安定しない場合
・ 周囲温度が大きく変化した場合
・ プローブの位置や向きを変更した場合
・ 長時間連続して使用した場合
特に直流電流や微小電流の測定では、消磁状態が測定精度へ大きく影響します。
■消磁の基本的な手順
消磁方法は製品によって異なりますが、一般的には次の手順で行います。
・ 電流プローブを測定器または専用電源へ接続する
・ 指定されたウォームアップ時間を確保する
・ 測定導体をクランプ内部から外す
・ クランプの接合面を確認する
・ クランプを完全に閉じる
・ プローブを実際の測定位置に近い状態へ置く
・ 消磁機能を実行する
・ 消磁完了表示を確認する
・ 続けてゼロ調整を行う
消磁中は、クランプを開いたり、プローブを大きく動かしたりしないでください。
■ゼロ調整とは
ゼロ調整とは、測定電流が0Aのときに、オシロスコープの表示を0Aへ合わせる操作です。
電流プローブには、ホール素子、増幅回路、電源回路などによるオフセットがあります。また、温度、外部磁界、プローブの姿勢などによってゼロ点が変化することもあります。
ゼロ調整によって、これらの出力オフセットを補正します。
■消磁とゼロ調整の違い
消磁とゼロ調整は目的が異なります。
・ 消磁:磁気コアに残った磁気を低減する
・ ゼロ調整:プローブ出力の電気的なずれを0Aへ合わせる
ゼロ調整だけを行っても、磁気コアの残留磁気は取り除かれません。そのため、直流対応電流プローブでは、一般的に消磁を行った後でゼロ調整を行います。
製品によっては、消磁とゼロ調整が一つの操作として自動実行されます。
■ゼロ調整の基本的な手順
一般的なゼロ調整は、次の手順で行います。
・ 測定導体をクランプから外す
・ クランプを完全に閉じる
・ プローブを実際の使用位置へ置く
・ 使用する電流レンジを設定する
・ オシロスコープの基準位置を確認する
・ プローブのゼロ調整機能を実行する
・ 表示値が0A付近にあることを確認する
クランプ内部に電流が流れる導体がある状態でゼロ調整すると、その電流が差し引かれ、誤った測定結果になります。
■ウォームアップが必要な理由
電流プローブのホール素子、増幅回路、補償回路などは、温度によって特性が変化します。
電源投入直後は内部温度が安定していないため、ゼロ点が徐々に移動する場合があります。微小電流や直流電流を正確に測定するには、メーカーが指定する時間だけウォームアップしてから消磁とゼロ調整を行います。
ウォームアップ中には、次の状態を整えます。
・ 使用する測定器へプローブを接続する
・ 実際に使用するレンジを設定する
・ 周囲温度を安定させる
・ 強い外部磁界から離す
・ 直射日光や局所的な熱源を避ける
高精度測定では、測定中の温度変化にも注意が必要です。
■ゼロドリフトとは
ゼロドリフトとは、時間や温度の変化によって、0Aの表示位置が徐々に移動する現象です。
ゼロドリフトの主な原因には、次のものがあります。
・ ホール素子の温度特性
・ 増幅回路の温度変化
・ 周囲温度の変化
・ 外部磁界の変化
・ プローブの姿勢変化
・ 磁気コアの残留磁気
・ 電源電圧の変化
・ クランプ接合状態の変化
長時間測定では、測定開始前だけでなく、必要に応じて途中でもゼロ点を確認します。
■外部磁界とゼロ点の関係
電流プローブは磁界を検出するため、測定導体以外の磁界も出力へ影響します。
トランス、インダクタ、モーター、バスバー、大電流ケーブルなどの近くでは、クランプ内部に導体がなくても0Aにならない場合があります。
外部磁界の影響を抑えるためには、次の方法が有効です。
・ 大電流部品から距離を取る
・ プローブの向きを変えて影響を確認する
・ 実際の測定位置でゼロ調整する
・ 複数の電流プローブを離して配置する
・ 出力ケーブルをスイッチングノードから離す
・ プローブを固定して動かさない
ゼロ調整後にプローブの位置や向きを変更した場合は、再調整を検討します。
■磁気飽和とは
磁気飽和とは、磁気コアへ加わる磁界が大きくなり、電流が増加しても磁束密度がほとんど増えなくなる状態です。
磁気飽和が発生すると、電流プローブの出力が実際の電流に比例しなくなり、正確な測定ができません。
磁気飽和は、ピーク電流だけでなく、直流成分、パルス幅、デューティ比、アンペア秒積などによっても発生します。
■磁気飽和が発生する原因
磁気飽和の主な原因には、次のものがあります。
・ 最大測定電流を超えている
・ 大きな直流電流が流れている
・ パルス電流の幅が長い
・ アンペア秒積を超えている
・ 低周波の大電流を測定している
・ 導体を複数回巻いている
・ 補償回路の出力能力を超えている
・ クランプが完全に閉じていない
・ 磁気コアに大きな残留磁気がある
プローブの測定範囲内に見える場合でも、複数の条件が重なると飽和することがあります。
■磁気飽和時の波形
磁気飽和が発生すると、次のような波形が観測される場合があります。
・ 電流ピークが平らになる
・ 波形の上側または下側がつぶれる
・ 正負の波形が非対称になる
・ 振幅が実際より小さく表示される
・ パルス途中で波形が垂れる
・ 直線性が失われる
・ 過負荷後にゼロ点が移動する
・ 波形の回復に時間がかかる
波形がクリッピングしている場合、オシロスコープの表示範囲だけでなく、電流プローブの磁気飽和も確認します。
■直流成分と交流成分の組み合わせ
電流プローブの測定限界は、直流成分と交流成分を別々に判断できない場合があります。
例えば、大きな直流電流に小さな交流リップルが重畳している場合、磁気コアと補償回路は直流成分によって既に大きな負担を受けています。そのため、交流成分の測定範囲や帯域幅が制限されることがあります。
次の条件を確認します。
・ 直流バイアス電流
・ 交流電流のピーク値
・ 交流電流のRMS値
・ 合成した最大瞬時電流
・ 信号周波数
・ デューティ比
・ プローブのディレーティング
プローブの最大電流値だけでなく、使用条件に対応したグラフや曲線を確認します。
■複数回巻きと磁気飽和
小電流を高感度で測定するため、導体を電流プローブへ複数回通す方法があります。
導体をN回通すと、プローブが検出する磁界は、実際の電流のおおよそN倍に相当します。表示値をNで割ることで、元の電流を求められます。
一方、磁気コアへ加わるアンペアターンもN倍になるため、磁気飽和しやすくなります。
・ 感度は巻数に応じて高くなる
・ 実質的な最大測定電流は巻数に応じて低下する
・ アンペア秒積の余裕が小さくなる
・ 高周波特性が変化する場合がある
・ 導体間の寄生容量が増加する場合がある
複数回巻く場合は、測定電流とプローブ定格を巻数に合わせて換算します。
■過負荷後の回復
磁気飽和や過大電流が発生した後は、電流が定格範囲へ戻っても、プローブがすぐに正常状態へ戻らない場合があります。
磁気コアに残留磁気が生じたり、補償回路が飽和したりすると、ゼロ点のずれや波形歪みが一定時間続くことがあります。
過負荷が疑われる場合は、次の手順で確認します。
・ 測定対象からプローブを取り外す
・ プローブに異常な発熱や損傷がないか確認する
・ クランプを完全に閉じる
・ 消磁を行う
・ ゼロ調整を行う
・ 0A表示が安定するか確認する
・ 既知の電流で動作を確認する
定格を大幅に超えた場合や異常が残る場合は、使用を中止してメーカーまたは販売元へ相談してください。
■レンジ選択と磁気飽和
複数の測定レンジを持つ電流プローブでは、高感度レンジほど最大測定電流が小さくなる場合があります。
微小な波形を見やすくするために高感度レンジを選んでも、直流バイアスやピーク電流によって飽和すると、正しい波形を測定できません。
レンジ選択時には、次の項目を確認します。
・ 最大ピーク電流
・ 連続電流
・ 直流バイアス
・ 交流RMS電流
・ アンペア秒積
・ プローブ出力範囲
・ オシロスコープ入力範囲
最初は大電流レンジで波形を確認し、電流値が明確になってから高感度レンジへ変更すると安全です。
■磁気飽和とオシロスコープのクリッピングの違い
波形のピークが平らになっている場合、電流プローブの磁気飽和だけでなく、オシロスコープ入力のクリッピングも考えられます。
切り分けには、次の方法が有効です。
・ オシロスコープの垂直レンジを広げる
・ 電流プローブを大電流レンジへ変更する
・ オシロスコープのオフセット設定を確認する
・ 異なる電流プローブで比較する
・ 負荷電流を低下させて波形を確認する
・ プローブの過負荷表示を確認する
オシロスコープの設定を変更しても波形のつぶれが変わらない場合は、プローブ側の飽和が考えられます。
■ゼロ点誤差が測定へ与える影響
大電流測定では小さなゼロ点誤差が目立たなくても、微小電流測定や電荷量の積分では大きな誤差になります。
例えば、一定のゼロ点誤差が長時間加算されると、平均電流、消費電力量、充放電量などの計算結果が大きくずれる可能性があります。
特に次の測定では注意が必要です。
・ バッテリの待機電流
・ 微小な漏れ電流
・ コンデンサの充放電電流
・ 長時間の平均電流
・ 電流波形の積分
・ クーロンカウント
・ 低デューティ比のパルス電流
測定前後で0A表示を確認し、ゼロドリフトの大きさを評価します。
■正確な測定を行うためのポイント
消磁、ゼロ調整および磁気飽和による誤差を抑えるには、次の点が重要です。
・ 十分なウォームアップ時間を確保する
・ 測定前に消磁を行う
・ 消磁後にゼロ調整を行う
・ クランプを完全に閉じる
・ 実際の測定位置で調整する
・ 外部磁界から距離を取る
・ 最大電流とアンペア秒積を超えない
・ 適切な測定レンジを選択する
・ プローブを測定中に動かさない
・ 長時間測定では定期的にゼロ点を確認する
大電流を測定した後は、次の測定を開始する前に再度消磁とゼロ調整を行うことが推奨されます。
■消磁やゼロ調整が正常に完了しない場合
消磁やゼロ調整を実行してもエラーが表示される場合は、次の項目を確認します。
・ クランプが完全に閉じているか
・ クランプ内部に導体がないか
・ 接合面に異物がないか
・ 強い外部磁界がないか
・ プローブのレンジ設定が正しいか
・ 電源装置との接続が正常か
・ プローブが十分にウォームアップされているか
・ ケーブルやコネクタに損傷がないか
・ 磁気コアが欠けていないか
改善しない場合は、プローブ内部の故障や大きな残留磁気が考えられます。使用を中止し、点検または校正を依頼してください。
■まとめ
消磁は、電流プローブの磁気コアに残った磁気を低減する操作です。ゼロ調整は、0A入力時の出力オフセットを補正する操作です。
磁気飽和は、過大な電流やアンペア秒積によって磁気コアが測定電流へ比例して応答できなくなる状態です。磁気飽和が発生すると、波形のピークがつぶれ、実際より小さい電流が表示される場合があります。
正確な測定には、十分にウォームアップした後、測定導体を外してクランプを閉じ、消磁してからゼロ調整を行います。また、最大電流、直流バイアス、パルス幅およびアンペア秒積を仕様範囲内に保つことが重要です。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱い電流プローブ
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