この記事では電子回路において重要な役割を果たす入力インピーダンスと出力インピーダンスの意味と重要性について解説しています。
入力インピーダンスとは
入力インピーダンスとは、電子回路の信号源から見たときの負荷抵抗・負荷インピーダンスのことです。わかりやすく表現すると信号の受け取りやすさを表す指標とも言え、入力インピーダンスの高低によって回路の受信電圧が変化します。
入力インピーダンスの影響
電圧の高低を信号として扱う電子回路では、入力インピーダンスが高いほど良いとされています。この理由は信号源から出力される電圧に対して、電圧降下の影響を最小化できるからです。
入力インピーダンスの影響のわかりやすい例として、電圧計が回路に与える影響で考えてみましょう。一般的に電圧計は回路に対して並列に接続し、両端に掛かる電圧を測定するものです。このとき電圧計の入力インピーダンスが低いと、信号源から電圧計に対して電流が流れ込んでしまい、その結果として回路全体の電圧が下がってしまいます。つまり正確な電圧を測定できないということです。
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図 電圧計の入力インピーダンスが100Ωのとき
(信号源の電圧10Vに対して、負荷抵抗に掛かる電圧は9.89Vと110mVの測定誤差が生じている)
一方で入力インピーダンスが高くなると、電圧計には電流がほとんど流れないため余分な電圧降下が生じることなく、負荷抵抗に掛かる電圧を正確に測定できます。
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図 電圧計の入力インピーダンスが100kΩのとき
(信号源の電圧10Vに対して、負荷抵抗に掛かる電圧は9.99Vと測定誤差を10mV以下まで低減できている)
高入力インピーダンスデバイスの具体例
電子回路において入力インピーダンスが低いということは、すなわち回路がうまく機能しない可能性があることと同義です。そのため多くの電子回路、またはそれを構成する半導体デバイスは入力インピーダンスが非常に高くなるように設計されています。
高入力インピーダンスデバイスの代表的なものとしてはオペアンプがあります。オペアンプは主にアナログ信号を増幅したり、フィルタリングしたりするために使用しますが、理想的なオペアンプは入力インピーダンスが無限大とされています。これは前段の信号源に対して負荷をかけずに、正確な電圧を受け取れるようにするためです。
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図 理想的なオペアンプの特徴
実際に電圧を測定するために使用するデジタルマルチメータの入力段にもオペアンプを使用しており、入力インピーダンスを高く保ちつつゲインを調整することで、幅広いレンジの電圧を正確に測定できるようになっています。
出力インピーダンスとは
出力インピーダンスは、電子回路の信号源の出力抵抗・内部インピーダンスのことです。わかりやすく表現すると信号の送り出しやすさを表す指標とも言え、出力インピーダンスの高低によって回路の受信電圧や負荷電流が変化します。
出力インピーダンスの影響
出力インピーダンスは入力インピーダンスと反対に、電子回路では出力インピーダンスが低いほど良いとされています。この理由は負荷の種類にかかわらず、安定した電圧を出力できるためです。
ここではわかりやすい例として、10Vの信号源に対して10Ωの負荷抵抗を接続した回路で考えてみましょう。このとき信号源の出力インピーダンスが高いと、負荷に流れる電流が制限され、それによって負荷に掛かる電圧が低下します。つまり本来は負荷で消費されるはずの電力の一部が出力インピーダンスによって消費されているということです。
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図 信号源の出力インピーダンスが100Ωのとき
(負荷を1Aで駆動するはずが、出力インピーダンスの影響で90.9mAしか流れていない)
一方で信号源の出力インピーダンスが低い場合は、電流制限の影響が最小化されるため、ほとんどの電力が負荷によって消費されるようになります。
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図 信号源の出力インピーダンスが10mΩのとき
(1Aの駆動電流に対して999mAと、ほぼ損失なく負荷に電力を供給できている)
低出力インピーダンスデバイスの具体例
電子回路の中でもただ単に電圧を信号として出力する場合は出力インピーダンスの高低をそれほど気に掛ける必要はありませんが、負荷に対して電力を供給する用途の場合には出力インピーダンスができるだけ低いことが重要です。具体的な用途としては電源回路やオーディオアンプなどがあります。
オーディオアンプを例にすると、スピーカーから音を鳴らすためには大きな電流を安定して供給する必要があります。一般的にスピーカーの入力インピーダンスは10Ω程度とそれほど高くありません。その中でオーディオアンプの出力インピーダンスが高いと損失が大きくなるため、出力インピーダンスは数10mΩ程度となっています。オーディオアンプの出力インピーダンスとスピーカーの入力インピーダンスの比をダンピングファクターと呼び、ダンピングファクターが大きいほど低域の音質が良くなるとされています。
入出力インピーダンスと受信電圧の関係
電子回路では負荷の入力インピーダンスと信号源の出力インピーダンスの組み合わせによって、回路の挙動に違いが生じます。これらの関係性を整理するために、ここでは信号源の電圧を1V、インピーダンスの高いとき1kΩ、低いとき1Ωとし、4つのパターンで比較してみます。
組み合わせ比較
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Zout 1Ω - Zin 1Ω
入出力インピーダンスがどちらも低い場合、信号源の出力電圧1Vに対して負荷電圧は半分の0.5Vとなります。また回路の合成抵抗が低いことで電流が500mAとなっており、消費電力も高くなります。
Zout 1kΩ - Zin 1Ω
信号源の出力インピーダンスが高く、負荷の入力インピーダンスが低い場合、負荷に掛かる電圧は1mVと非常に小さくなります。つまり電圧が信号として機能していないということです。そのためこの組み合わせは、電子回路として最も不適切な組み合わせになります。
Zout 1Ω - Zin 1kΩ
信号源の出力インピーダンスが低く、負荷の入力インピーダンスが高い場合、信号源の出力電圧がほぼそのまま負荷にかかります。これが電子回路の最も理想的な条件で、余計な損失なしに信号を伝送することができます。
Zout 1kΩ - Zin 1kΩ
入出力インピーダンスがどちらも高い場合も、信号源の出力電圧1Vに対して負荷電圧は半分の0.5Vとなります。入出力インピーダンスがどちらも低い場合のように消費電力は高くありませんが、実用的とは言えません。
ロー出し・ハイ受けの重要性
信号源の出力インピーダンスが低く、負荷の入力インピーダンスが高いことをロー出し・ハイ受けと呼びます。このロー出しハイ受けは回路間で信号伝送するときに、電圧の減衰を最小限に抑えるための最も基本的な手法で、複数の電子機器を接続するときに非常に役立ちます。例えばミキサーにマイクやシンセサイザーなど複数の音源を接続するときに、ミキサーの入力インピーダンスが高く設計されていれば、接続する機器の数が増えても、それぞれの音源を減衰させることなく受け取ることができます。一方でもしミキサーの入力インピーダンスが低いと、接続した機器同士が互いに影響し合い、信号が劣化してしまう原因となります。
高周波特有の注意点
一般的な電子回路を対象とすると入出力インピーダンスはロー出し・ハイ受けが最も理想的ですが、高周波回路ではこの考え方が通用しません。高周波の世界ではインピーダンスマッチングという、出力インピーダンスと入力インピーダンスを整合させることが最重要となります。
インピーダンスマッチングの必要性
高周波信号は、プリント基板の配線パターンやケーブルといった伝送線路を波として伝わります。このとき、伝送線路の途中でインピーダンスが急に変わる点があると、波はそこで反射してしまう性質があります。
ホースを流れる水で例えると、太いホースから急に細いホースに繋がると、その接続点で水の一部が跳ね返って逆流します。高周波信号でも全く同じ現象が起こり、この反射した信号は元の信号と干渉し、波形を乱したり、著しく減衰させたりする原因となります。これを防ぐ唯一の方法が、出力側、伝送線路、入力側のインピーダンスをすべて同じ値に揃えること、つまりインピーダンスマッチングです。これによって信号は反射することなく、スムーズに負荷まで伝わり、電力を最大効率で伝達することができます。
インピーダンスマッチングの具体例
身近なところで高周波信号を取り扱っているものとして、最近では様々な電子機器にWi-Fiなどの無線通信機能が備わっていますが、これらの高周波回路はアンテナで受信した微弱な電磁波をロスなく受信機まで伝送するために、アンテナ、ケーブル、配線、アンプ、フィルタなどがすべて50Ωのインピーダンスで統一されています。その他にも、高速デジタル回路ではシグナルインテグリティ(SI:Signal Integrity)の観点からインピーダンスマッチングが重要視されます。
インピーダンスマッチングの方法
高周波回路では抵抗を使用すると発熱などの別の問題が発生するため、コイルとコンデンサを使ってインピーダンスマッチングを行います。Wi-Fiなどの無線信号は搬送波と呼ばれる高周波に、ある帯域幅を持ったベースバンド信号を掛け合わせて高い周波数帯で信号を伝送しています。これは特定の周波数帯でインピーダンスがマッチングしていれば問題ないことを意味しており、それらの用途においてコイルとコンデンサは適任とも言える電子部品です。
コイルの誘導性リアクタンスとコンデンサの容量性リアクタンスは、周波数に応じてその大きさが変化します。この性質をうまく利用して、特定の周波数帯でインピーダンスマッチングするというのが、高周波回路におけるインピーダンスマッチングの考え方です。具体的にはコイルとコンデンサは直列に挿入したり、並列に接続したりと様々な組み合わせ方が存在します。そして組み合わせ方や定数の検討にはスミスチャートというツールを使用します。
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スミスチャートはインピーダンス平面を円状に変形させたもので、高周波回路の設計には欠かすことのできないグラフです。スミスチャートの詳細については別の記事で解説しますが、ひとまずはこのような手法を用いて特定の周波数でインピーダンスマッチングすることで、高周波回路のロスを最小化して信号を伝送できるようになります。
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