SIGLENT(シグレント) SDS800X HDシリーズ デジタル・オシロスコープ

🛡️ FS-IGBT (Field Stop IGBT) とは

 

FS-IGBTは、従来のIGBT(Non-Punch Through IGBT: NPT-IGBT)の課題を解決し、より薄いウェハで高耐圧化高速スイッチングを両立させるために開発されたIGBTの構造です。日本語では「電界停止型IGBT」と呼ばれます。

【主な特徴】

  • 薄型化: 電界停止層により、従来のIGBTよりもウェハを薄くできる。

  • 低オン電圧: 薄型化と伝導度変調効果により、オン状態での電圧降下が低い。

  • 高速スイッチング: 薄型化により、少数キャリアの蓄積量が減り、ターンオフ時間が短縮される。


 

従来のNPT-IGBT(Non-Punch Through IGBT)との比較

 

まず、FS-IGBTを理解するために、従来のNPT-IGBTの構造を見てみましょう。

【NPT-IGBTの構造】

 

 

 

 

NPT-IGBTの最大の特徴は、厚いnドリフト層 です。

  • 高耐圧化のメカニズム: オフ状態(コレクタ-エミッタ間に高電圧印加)では、コレクタ側のpn接合(p+コレクタとnドリフト層)に逆バイアスがかかり、空乏層が$\text{n}$ドリフト層内をエミッタ側へ広がります。この空乏層がコレクタまで到達しないように(Punch Throughしないように)ドリフト層を厚くすることで、高い電圧に耐えることができます。

  • 課題:

    • 厚いウェハ: 高耐圧化のためにはnドリフト層を厚くする必要があり、ウェハ全体が厚くなります。

    • スイッチング損失: オン状態では少数キャリア(ホール)がnドリフト層全体に蓄積されます。ターンオフ時にはこれらのキャリアを全て再結合させる必要があり、厚いドリフト層では時間がかかり、スイッチング損失が大きくなるという課題がありました。


 

FS-IGBTの構造と動作原理

 

【FS-IGBTの構造】

 

 

 

 

FS-IGBTの最大の特徴は、nドリフト層とp+コレクタ層の間に設けられた**n型電界停止層(Field Stop Layer)**です。

  • 構造: 従来のNPT-IGBTに比べて薄いnドリフト層 を持ち、その下に薄いn型電界停止層 、そして**p+コレクタ層** が配置されています。

  • 高耐圧化のメカニズム(オフ状態):

    1. コレクタ-エミッタ間に高電圧が印加されると、コレクタ側のpn接合に逆バイアスがかかり、空乏層がnドリフト層へ広がります。

    2. 空乏層はnドリフト層をほぼ完全に貫通しますが、その直後に設けられた**n型電界停止層で電界が停止** されます。

    3. 電界が停止されることで、それ以上空乏層が広がらず、高い電界強度を持つ領域がドリフト層内に限定されます。これにより、薄いドリフト層でも高耐圧を維持 できるようになります。

  • 高速スイッチングのメカニズム:

    1. ウェハ全体が薄型化されたことで、オン状態時に蓄積される少数キャリア(ホール)の量が大幅に減少します。

    2. ターンオフ時には、この少量のキャリアをより短時間で再結合させることができるため、スイッチング損失が低減し、高速スイッチングが可能 になります。

 

まとめ

 

特徴 NPT-IGBT FS-IGBT
ウェハ厚 厚い 薄い
ドリフト層 厚いnドリフト層 薄いnドリフト層
追加層 なし n型電界停止層
耐圧維持 空乏層がドリフト層に閉じ込められる 電界停止層で電界を停止
オン電圧 比較的高い 低い
スイッチング速度 遅い(損失大) 速い(損失小)
製造難易度 比較的容易 電界停止層の形成がやや複雑

現在では、車載用インバーターや産業機器など、高速スイッチングと低損失が求められるアプリケーションでは、FS-IGBTが主流となっています。

 

 

 

出典:Google  Gemini

 
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3.次世代パワーデバイスの種類と概説 a)Si-IGBTの新構造が続々登場 b)シリコンカーバイド c)窒化ガリウム d)酸化ガリウム e)ダイヤモンド
4.パワーデバイスの最新応用例 (特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信 c)太陽光発電 d) 蓄電システム e) UPS f)インダクション・ヒーター g)急速充電 h) ワイヤレス給電 i) 電気自動車への利用(オンボード充電器、トラクションモーター)
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出典:SiCパワー半導体推進部

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